第二話 魔との契約
ヒトラーが消えて、一週間が経った。
ノアが臨時総統となり、国内の課題整理に追われていたプライセンでは解散させられたナッティス以外の政党が集まって大きなデモを何度も行っていた。
「総統がまだお帰りにならなければ、もう限界だ。」
「ゲルウスらの必死の演説もそろそろ限界だぞ、この際はっきりと公言するべきではないか?」
「それはダメだ!今そんなことを言えば、アカどもが暴挙するに決まってる!」
一方、カタリカでもプライセンの此処一週間の振る舞いは注目されていた。
「プライセンは今ヒトラーがいないという噂が立っている…これが本当なら、リーグレどもが黙ってはいないな。」
「エルウェーウィン同士、これが事実であるとするならば我々はプライセンへ譲歩をする必要はないでしょう。」
「あぁ…どうしたものかな。」
その頃ヒトラーは、何もない草原のど真ん中で茶会に参加していた。
「まさか、こんな所でミカエルに会えるなんてな。」
彼は今、三人の大天使達と会っている。何故このようになったのかを、時間を戻して見てみよう。
ヒトラーはウォフと別れた後、ひたすら草原を歩いていた。
不思議な事に、いくら歩いても疲れることはなく、寧ろ健康的になっている感じがしたのだ。
「何もない草原に、少々豪華な屋敷を建て優雅に暮らす…いい余生だ。」
そう思いながら只ひたすら草原を歩くと、ポツンとテーブルと椅子が置かれていた。
椅子は全部で四つ、机は長方形…しかも、日除けの傘付き。
まるで誰かがここで茶会でもするかのようにセットされていた。
「茶はまだ出来ていない…私の他に誰かいるのか?」
少し離れたところには、ケーキスタンドが四つ置かれていた。サンドイッチとスコーン…それにザッハトルテ。まさか、チャーチルでもいるのだろうか?
「誰だ…!そこにいるのは!」
急に背後から声が聞こえた。驚いて腰に付けたワルサーPPKを出して振り向く。
そこにいたのは、紅の翼に、赤い服。右手には大きな大剣。
間違いない。大天使ミカエルだ。
「…み…みか…える…?」
そう…ミカエル…のはず。
だが容姿を見れば、私より10cm低くおまけに長髪。肉付きは引き締まっている。
だが顔は、童顔…声もやけに高い。
「…あなたはミカエルか?」そう問うた。
するとそういった。
「いかにも!私は大天使ミカエル!誰だお前は?人間か?」
「ああ、人間だ。」
「人間がなぜここにいる。此処は天界だぞ!」
「そんな事を言われても…」
事情を説明すると、ミカエルは困った顔をした。
「そうか。ウォフが…この問題は私一人では解決が出来ぬ。後の二人が来たら、君を囲んで四人で話し合おう。」
そして、今につながる。
ガブリエルとラファエルが合流した。
ガブリエルは頭にクルスクを翳し、緑色の大きな羽・腰にはラッパを身につけており、緑色の服を着ていた。
ラファエルは青色の服に青い羽。背中には赤い十字架。
「なるほど…ウォフが…困ったものです。」
「今までこんなことはこの千年間起こり得なかった。元は私たちの職務…ガブリエル・ミカエル。この事はウォフ達と話し合って解決すべきです。」
「だがこの人間は、ウォフの提案には乗れないと言ってしまったものでな。つまり、彼は今二択を迫られている。」
私のことを蚊帳の外に、三大天使は話し合っている。
彼女達が話し合うのを眺めて、紅茶を啜るしかなかった。
「…ではこれで行こう。」
「ようやく何か決まったのか。」
「人間、今から我々がお前に大天使の能力を授ける。力・治癒・守護。この三つの力を使って、天界と人間界のゲートを潜れるはずだ。」
…ようは私が天使にでもなるのか?
「ですが…いくら力を与えたとはいえ、守衛が門を開くでしょうか?」
「…じゃあダメだな。」
「ならば…天使が人間界に降りればいいのでは?」
突拍子もないことを言った。
そうだ。私の世界だって何回も天使は降りてきているんだ。
「…あ、それいいな!」
「偶には人間界をこの目で見て見ましょう…」
「では私は神にそう伝えて参ります…」
こうして、私はウリエル・ガブリエル・ラファエルを引き連れ、帰ることになった。実に奇妙で、素晴らしい体験だったと思う。
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