第三章 異世界まやかし大戦編

第一話 消えたヒトラー

プライセンがリーグレとアルザスに宣戦布告して、三日が経った。

しかしながら、双方に未だ戦闘状態は消極的だった。


リーグレとアルザスは、プライセンの怒涛の反撃を恐れ国境警備兵に発砲許可を出しただけだった。


一方プライセンでは、とんでもないことが起きていた。

それは、ヒトラーが一夜の内に消えたことである。


「総統はどこへ行ったんだ!?」


「もう三日もこの状態が続いてるんだ。兵士達の士気も下がってきているぞ。」


「カタリカとダンティッシュには作戦だと伝えておきました。」


「しかしそれもいつまで通用するか…」


それ以外にもプライセンは焦ることがあった。協定を結んでいた鳴神が、隣国に対して宣戦布告を行い、一大戦闘を行なっていたためである。プライセンとしては鳴神に東を任せ、プライセンが西を戦うという目論見だったが、鳴神が待ちきれず先に戦ってしまった。


「ともかく、全ての党員に探すよう命じるか?」


「それはダメだ!今や国民の三分の一が党員なんだぞ。国内に自ら広めさせるようなものだ。」


「う〜ん…」


辺りは真っ白、何も見えない。自分がどこにいるかも分からない。

そんな状況の中、ヒトラーは昏睡状態から目を覚ました。


「…どこだここは。私は確か執務室にいたはず…」


その時、ヒトラーの頭に誰かが話しかけてきた…


「…よ。…転生者よ。かな転生者よ。」


誰だ…?


「愚かなる転生者よ…!」


うぅん...とゆっくりと目を開け、起き上がると…


「な…なんだ…ここは…」


辺りには何もない…草原がどこまでも続いていく…

まるでスイスの長閑な田園のように…


「…ん…っ!?」


右を見ると、長閑な風景とは裏腹に人間の死体が山のように積み上げられていた。どこまでも高く…


「と…ともかく…帰らなくては…」


しかし…どこに行けば良いのか?

当てもなく続く田園を、ゆっくりと歩いていくヒトラーだった…


一方、カタリカ。

エルウェーウィンはかつてカタリカが目論んだアヌンナキ大陸の獲得に成功したは良いものの、その広大な領土。そして大陸に住む人々はカタリカに信頼はしていなかった。


エルウェーウィンは兵士に、アヌンナキ大陸の豊富な資源や労働力・金銀財宝を持ってくるように命じ、調査隊をいくつも派遣した。

しかしながら、先住民族をはじめとする原住民の攻撃に遭い、更にアヌンナキ独特の気候に悩まされた。


「くそっ!大陸を手に入れたは良いものの、これじゃあ何の意味もないではないか!」


「首相、こうなってはカタリカ市民権を奴らに与えるのはいかがですか?」


「何っ?」


「あの大陸を高度に発展させる代わりに、我々はそこから生まれた利益を得るのです。」


「ふむ…それでは君をアヌンナキの総督に任命する、やれるだけやってみろ。」


こうしてアヌンナキ大陸に総督が生まれた。

総督の名は、カルダー・エン・ヴシュヌ。彼のルーツはアヌンナキであり、彼らの文化も少々知っていた。


だが文化を知っているからとて、それが友好の架け橋になるわけではない。

彼は大陸に着いてまず、原住民との友好を結ぶことを開始した。


一方のヒトラー。

もう何日間、同じ景色を見ているのだろう。

天気も時間も、全く変わる気配はない。


「ああ…気が狂いそうだ…」


ついにその場に倒れるように横になると、そのまま目を閉じてしまった。


…話し声が聞こえる。誰だ…たのむから、寝させてくれ…


「…この転生者は失敗だったか?」


「だから言ったんだ!独裁者を転生させては、異世界でまた同じことを繰り返すだけだってな!」


「だがそれを決めたのはアフラ様だ。その決定に反するのか?」


「ちっ…おい起きろ!転生者!」


痛い…誰かに蹴られた…?それに…アフラと言ったか…?


「うう〜ん…お、お前達は誰だ…?」


見た目は人間と変わりないが…皆背中に白い羽を生やしている…じゃあやはりここは、天国なのか…?


「転生者よ…私の名前はアフラ・マズダー。貴方が前いた世界では、ゾロアスター教という宗教で祀られていた…」


「あぁ…聞いたことがある。」


「こちらはアムシャ・スプンタが二人、ハルワタートとウォフ・マナフ。」


その二人は、名前を言われると小さく会釈した。が、その目は鋭く私を見ていたし、ハルワタートに関しては右手に水の槍を手にしていた。


「それで…私をここに呼んだ理由は?」


「単純です。私は、貴方を更正させるために異世界へ送りました。ですが貴方が今やっている事は、前世と何ら変わっていません。もし今ここで、その活動をやめると宣言してくださるなら、返して差し上げます。ですが…もし続けるというのなら、貴方には断罪の鉄槌を喰らわせます。」


なるほど…いわゆる神の審判か…


「断ると言ったら?」


「すぐにでも貴方を冥界へ送り届けます。」


ふむ…これは困った。

冥界へ帰るのは嫌だし、かといって此処まで育て上げた新しいナチスを消すのも嫌だな…

数分考えて、ヒトラーはこう答えた。


「その返信は保留にさせていただこう。」


すると、ウォフはこう言った。


「では、貴方はこの何もない世界を満喫してください。」


彼らは消え、何もない草原に戻ってしまった。


「さて…私はゆっくりさせてもらおう…」


ヒトラーはそう呟くと、寝てしまった。



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