第七話 開戦への黙示録
ヒトラーの山荘に、ヒトラー専用写真家助手のブライアンが来るようになった。
それまで切り盛りをしていた前の管理人が故郷に帰るためである。
「総統、チェスのズテュテン・プライセン党のヘッドライン氏です。」
「チェスのズテュテン地方325万人のプライセン人は一日も早く祖国へ統合される事を願っています。国境周辺にはプライセン軍が集結していて今にも自分達を解放してくれるという噂でいっぱいです。」
そこへ、外相のリューネスブルクが口を挟んだ。
「今のプライセン軍にはまとまりが無い。国防軍とEPならまだしも、近衛兵や散十字軍。更には、進軍したところでチェスのチェック要塞を突破するにはまだまだ戦力不足だ。」
「事をせいてはいけない。我々は全て成功に導かねばならん。」
「今チェスと戦争したら、正直勝ち目はない。リーグレが黙ってないでしょう。」
「そうなればおしまいだ。」
「ヘッドライン君。君はチェス政府が拒否するぐらいの要求を常に出したまえ。所詮雑穀国家だ、すぐに折れる。その間に軍備を増強させ、もっと有利な状態を私が作っておこう。」
九月に、チェスのズテュテン・プライセンが反乱を起こし二日間の戦闘の末失敗に終わった。ヘッドラインは数千の義勇兵と共にプライセンへ亡命した。
「アルザスもリーグレも我々の軍備拡大を支持している。チェスのために何かをすればそれがなくなる。」
「それに、チェスの周辺国は解体の際におこぼれを望んでいます。」
「だから彼らは友好的な態度をとる。解体は成功するさ。」
「総統、アルザスの首相。ストラディ氏がお会いしたいそうです。」
「何、ストラディが?」
「間も無くここへ…」
ストラディは蝙蝠傘を持ってやってきた。
「ご苦労様です、ストラディ首相。早速ですが、ズテュテンのプライセン人は民族自決の理念から当然プライセンへ属すべきなのです。もし返還が行われなければ、我々は戦争も辞さないでしょう。」
「なんですと?戦争?総統が会談もせず、武力解決をするならなぜ私を呼んだのですか。」
「総理、お待ちください。私は戦争屋ではありません。」
「ヒトラー殿、私としてはズテュテンのプライセン人を他のチェス人から分離することに意義はありません。貴殿が私にプライセンの領土要求がこれで最後というならば、支持いたしましょう。」
「ええ、よろしいですよ。」
ヒトラーはチェスと戦争する予定だった。
ヒトラーは数日後、ストラディ氏に会い最後の提案をした。
「ヒトラーさん、これでどうでしょうか。チェス政府に対し、領土要求を容認するように仕向けました。」
「これがあなた方の提案ですか。するとチェスは少しは領土要求を同意したのですね?」
「ええ、まあね。」
「残念ですが、これはもう意味がありません。」
「なんですと!?」
「ここ二、三日で情勢は大きく変わりました。十月一日にズテュテンを引き渡すこと。また、周辺国であるディヴィジョンやハンゲルの領土要求も容認すること。これが私の最後の要求です。」
「本当ですね?」
この提案は、当然リーグレやアルザスも大反対した。チェスのベネット大統領は動員令を出し、またプライセンの国防軍の一部がチェスとの戦争に反対した。
ヒトラーはベルランでチェスとの戦争についての演説を行った
「これまで私が臆病な態度をとったことは一度もない!今こそ私は国民の最前線に立ち、歩み続ける!チェス大統領、ベネット氏にお任せしよう。これが我々の最後の領土要求だ。」
ヒトラーはチェスとの戦争をするつもりだったが、国民は疑問視していた。既に異種人族への差別的扱いが行われており、それが影響していた。
ヒトラーも困ってしまった。もし負ければ、自分が追いやられるからである。
そこへストラディ首相が助け舟を出した。エルウェーウィンと共に最後の首脳会談を行おうと提案した。
「しめた!」
「エルウェーウィンは準備が出来てないので困っていたでしょう。」
「早速会談を行おうと連絡したまえ。」
会談は旧プライセン帝国の宮殿で行われた。チェスが会談に参加することは許されず、待合室にて運命を告げられるのを待つ哀れな存在だった。
「ではこれでよろしいですか?」
「ええ、これでいいです。私もホッとしました。」
プライセンはズテュテンの併合を完了した。
チェス国民は自分達が世界から孤立化したのを知った。ベネット大統領はアルザスへ亡命した。
チェスチャーカスタヴァは今やヒトラーのお情けで存在している。その上、国内の人種間の間で自治権の要求を求める内戦が勃発した。翌月、チャーカスタヴァはプライセン保護国として独立。チェス暫定大統領のハーツはベルランへ向かった。
「総統閣下!チェスの運命はあなたにあるのですよ!」
「しかし、国内には未だベネット派が多い…プライセン軍は明朝六時に解放のための進軍を行う。その時チェスに自治権を付与するか否かは、あなた達が我々にどう対応するかにかかっている!抵抗なんてすれば、人間も異種人族も関係なく粛清する。」
「さ、さようでございますか…」
「抵抗はやめたまえ。」
「では、降伏文書にサインを。」
しかしハーツはサインをためらった
「サインしないのですかな?あと二時間…美しいカスタヴァの街を破壊しなくてはならないとは残念です。」
次の瞬間、ハーツは気絶してしまった
「気絶した、おいモラル。覚醒剤で起こせ。」
専属医師モラルの手により、ハーツは強制的に起こされた
「あ、ありがとうございます…」
「サインしろ!」
「今すぐやります!」
かくして、プライセン軍はチェスへ無血入場。保護領となった。
「一千年に渡り、この地方はプライセン人の文化・生活圏を成していた。その歴史に基づき、我々がこの土地を収めても何の問題もないのは、すでに証明されている。」
更にヒトラーは、タルト海に面する小国リニアを併合した。
次はディヴィジョンである
ヒトラーのチェス解体を見て、リーグレとアルザスはすぐさま封じ込めを開始した。ストラディはディヴィジョンの保証宣言を発表。軍事協定を結んだ。
ヒトラーはディヴィジョンへ要求する。
「ダンテスのプライセン復帰、またディヴィジョンとの穀物協定を行うこと。」
ディヴィジョン側は反抗。
「そんな協定を結ぶくらいなら戦争だ!」
今回に関してはどの国も強硬的であり、ヒトラーは手が出せなかった。
そこへ東方の国、ブリヤート連邦が手を差し伸べてきた…
「お互いに儲けましょう。」
8月23日、不可侵条約が結ばれた。この条約には秘密議定書が付いており、ディヴィジョンをプライセンが得る代わりにリニアをブリヤートへ譲歩するものだった。
「ふう、これでディヴィジョンは獲得できる。例の作戦を開始しろ。」
「はっ」
「総統、アルザス大使です。」
「通せ。」
「このままではまた全面戦争が起こる。」
「はははは、私は生まれつき芸術家で戦争屋ではない。この問題が片付いたら国内の労働問題についての時間を分けなくてはね。」
ヒトラーは適当に誤魔化して、気づかれないようにした…
「とにかく、世界戦争が起きないことを願います。」
ヒトラーは戦争を決意。九月一日、ディヴィジョンへ侵攻した。
「これから私はこの国の一人の国民にすぎない。私は再び、君たちの先頭に立って、君たちを勝利へ導こう!」
「私はプライセンが世界を手に入れるまで、この身を辞さないつもりだ。」
2039年9月3日
リーグレとアルザスはプライセンへ宣戦布告した。
プライセンにとっては二度目の、ヒトラーにとっては三度目の世界大戦となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます