第三話 党の分裂

ヒトラーは山荘で我が闘争の口述を、党員達や幹部におこなっていた。


「神の選択によって選ばれた天才は、例え初めは理解されずその価値を認められなくとも、やがて偉大な国民を導き、様々な困難を克服しさらに大いなる獲得させるだろう…」


「総統、そういった人物はどのようにして生まれるのですか。」


「それは…神のみぞ知る。続けよう。天才が自分は天才であると確信しているのに、世界からはいまだにそれを、認められることはない…それは、いつの時代でも、天才たる人間の運命なのだ。」


ヒトラーが講義をおこなっていると、ヘルが部屋に入ってきた。


「総統、用意ができました。」


「ああ…ヘルくん。開ける時はノックをしたまえ…」


「はっ。気をつけます。何しろ早くしないと会議に間に合わないと思いまして。」


2026年2月 南プライセンの街 パンペルク


ヒトラーは北部の指導者達が、職場から離れるのが困難な平日を選びパンペルクに集会を招集した。北部から出席できたのはシュテツィンガーとゲルウスだけだった。

シュテツィンガーとヒトラーは丸一日討論をしたが、初めからヒトラーは数に置いて優勢であり、おまけにそれまでシュテツィンガーの最大の支持者であったゲルウスを味方に引き込んで勝利を飾った。


会議の途中、ゲルウスは立ち上がり…


「諸君、私はヒトラーの意見を聞いてみた結果シュテツィンガーや私の方が間違っていることがわかった。この際、自分達がやってきたことは過ちだったと認め、ヒトラーの意見に従うしかないだろう。」


シュテツィンガーは、この言葉を聞いて特に何もしなかった。


シュテツィンガーが敗れたことにより、後はこの実力者を宥めて党の分裂を避けるだけである…


「なあシュテツィンガー。君のような逸材は、小さな町でチビチビとカネにもならない仕事を続けていてはいけないよ。」


「どういうことだ、アドルフ。」


「何、今やっている薬屋はやめろと言ってるのさ。」


シュテツィンガーはパンペルクでは有名な薬屋をやっていた。



「党の資金を使っていいから、君のような立派な人物には相応しい仕事を始めたまえ…」


「アドルフ、そうするよ。」


年末になり、冷え込む中。

兼ねてからヒトラーがこの世界に来てから色々と世話をしてくれていたチェンバレンが病気であるという知らせがあった。


チェンバレンは、ヒトラーが転生してくる所を見かけた唯一の人物であり、「君にはなすべき仕事がある」と予言した。

その時以来、ヒトラーはチェンバレンを信頼していた…



「チェンバレン先生、アドルフです。」


「…おお。来てくれたか。プライセンの希望の光よ。私の大プライセン主義の信念は少しも変わっていない。君は神の導きによってこの国を救うために選ばれたのだ。」


「おおっ…神の預言者よ…!!!」


「君こそがこの世界の、真の救い手だ…」


チェンバレンは翌年の一月に亡くなった。

参列した名士はヒトラーのみだった。


プライセンの首都 ベルラン


ヒューゲンは政治犯の特赦で拘置所から釈放されていた…


「元気だったかね。」


「総統。お久しぶりでございます。」


「ミュー一揆の時の傷はどうだったのかね?」


「腹に二発受けまして…痛みを取るために各地を放浪し、結局傷を治すのに二年かかりました。」


「足と聞いていたが、腹だったのか。」


話題は党の運営についてとなった


「近頃はどうなのですか。」


「総統の演説は許されないし…党の資金は赤字続き…大変ですよ。」


「俺は異人族の脛を齧るか否かまでになってしまった。」


「ほほう、私もなんとかアウターベーリンの上流社会へ舞い戻ろうと考えています。アウターベーリンのガウライターは誰です?」


「ああ、それならゲルウスに任せた。」


プライセンを34の地区に分け、これをガウ(州)と称し、その地区の指導者はガウライターと呼ばれた。


やがて二年の演説禁止令が解かれると、早速瀕死の状態だった党の再建運動へと駒を進めた。


たった一年で、49,000だった党員は79,000にまで増えた。


諸君!現在の繁栄は、異人族のやつらが見せている幻惑にしかすぎない!やがて不況がやってくる!


2028年5月の国会選挙では、ナッティスの党員12名が当選した。

すると、金持ちが段々ナッティスへ資金提供を行うようになった…


中でも、エーミールという人物は毎年首都で開かれる党大会に感動し、多額の寄付をおこなった。


「この金で、党本部を作ろう…!私が考えた、素晴らしい本部を!」


かつて“自称”芸術的建築家を語っていた彼は、再び設計に没頭することができた。

彼はこの後、各支部の細かな彩色に至るまで自分で設計した


ヒトラーは自分で設計したアパート型の党本部をミューに建てた。

この頃彼は、ミューに九室しかない広い高級アパートを借り、幹部達にも住まわせた。しかし、暮らしは贅沢ではなかった。


2029年 プライセン財務省はハイパーインフレーションを発表。

大不況が始まった。ナッティスは2030年の国民総議会選挙にて170議席を獲得し、野党第二党へ進出した。


「総統、もう政権も目前ですね。」


「もう一踏ん張りと言ったところだな。」


しかしヒトラーが党本部へ帰ると、本部の中はメチャクチャに荒らされていた。


「お、おい…これはどういうことだ?」


すると、党の政調会長をしていたエカルテが慌てふためいた顔でやってきた。


「そ、総統…!カラーが党の資本金と極秘資料を持って、民主党へ逃げてしまいました!!!」


「なんだと!?」


ヒトラーが慌てて外に飛び出し、町中を走り回っていると…


「カラー!どこだ!どこにいる…あっ!」


少し離れた所に、カラーと何者かが密会をしているのが見えた


「カラー君、こんなところを彼に見られては君も殺されるかもしれないぞ。」


「彼だって資本金を横領してるんだ、寧ろ殺されるのは彼なんだよ。」


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