第二話 闘争の末に…
やがて、闘争が終わり演説会場が静かになる。
ヒトラーは演説を続けた。
「我が党の綱領は、①民族自決の原則に則った全ての人間の統合 ②他国民に対する我が国民への差別合法を認めたサンショル条約の破棄 ③国際的人外種の排撃 ④非労働所得の禁止 ⑤トラストの国営化 ⑥社会保障制度の拡張 ⑦国民軍の建設 以上全ての要求を成功させるため、我々は共和国に強力な中央集権を創設する。
我々の運動は新しい国民を作る新しい運動なのだ!」
やがて賛成のどよめきが上がった。この頃から粛清隊はヒトラーの命によって突撃隊とされた。
共和国の中央政府は、ヒトラーの運動の弾圧へ乗り出した。その頃、インフレはついにハイパーインフレになり、国民は疲労の極みになっていた。
「父上。明日はお金が貰えるでしょうか。」
「今の共和国は明日がどうなるかすらわからない。全て今の共和政府が悪いんだ…帝国時代はこんなものではなかった。」
政府への不満は高まる一方だった…
ところが、その苦しみを横目で見ていた国がある。プライセンへ多額の貸付を行っていた隣国のアルザスが、支払いが遅れたのを理由に国土の一部を奪ったのだ。国民は大規模なストライキを行なったが、アルザスは軍を派遣。しかし、アルザスの兵士はほとんどがプライセン系だったため、兵士たちはストライキに加担した。
また、これに対して何の対策もしない中央政府へ非難が殺到。ついに紙幣は紙屑となり、インフレは頂点へ達した。
またこの頃、国内では最後の審判などの終末論者が多く現れた。それをきっかけに各地で新興宗教が次々と生まれ、国内は崩壊の一途を辿った。
ヒトラーは叫ぶ。
「政府は今もなお、のんびりと紙幣を刷ってゴミのように捨てている。それはなぜか!そうしなければ政府は崩壊するからだ!更にやつらのようなインチキな詐欺集団は国会の中にも多くいる。 国民諸君!奴らより私を信じたまえ!このままでは大量のお金を持っていようと、その後来るのはインフレの渦だけだ!そして何より、あのインチキ政府に従う事はもうなくなる!これからは我々国民が直に政治を行うからだ! 我々は、独裁権を欲する!」
大統領府では首相と大統領が、ヒトラー達の連日の反政府運動に手を焼いていた。だが国民の現政府に対する支持も失い、もはや時間の問題だった。
共和国首相 フリップ・シャイマン
「このままでは、共和国は彼らに転覆されてしまう。」
共和国大統領のフリードリッヒ・エーベルは首相の説得により、大統領の権限を譲ることにした。
「共和国の大統領権限をヒュンデル氏に、首相の権限をロスカナロフスキー氏に、委ねることに致します。」
ところがこの政府の決定に反して、バイル州が反乱を起こした。
州知事カール・州裁判長エマヌエル・州警察室長カイザーらは州の脱退を宣言。ヒトラー達の活動拠点だった為、彼らはヒトラーの逮捕に専念した。
「総統、彼らは総統を逮捕して我々の活動を禁止する意向を示しています。」
「そうとなれば一大事だ。我々の活動が禁止されば今後この党がどうなるかわからん。」
「首都にいる共和国の警官隊がこちらへ来る前に、こちらから首都の方へ攻め込むしか我々の選択はありません。」
「しかしバイル州の警察と軍が味方にならねば首都へ進撃しても無駄だろう。カールらはどうなんだ。」
「中央政府には非協力的ですが、我々にも味方にはつきそうにありません。」
「それに突撃隊は最早我々の手に終えません。何か指示を出さねば反乱の恐れもあり得ます。」
ヒトラーは考えた。どのようにして突撃隊を手懐けてカール達を味方につけるか、そして革命を実施するか否か。
「カールら三巨頭をひとまず手に入れ、我々に参加させ革命を成功させるほかなさそうだ。」
「では細目が決まれば、俺は突撃隊を率いて軍の司令部を占拠しよう。」
「では私は軍の最高司令官であるルーデンベルグ氏へ援軍を求めに参ります。」
「では革命を開始する!突撃隊を集めたまえ。」
2023年11月8日、バイルの首府ミューのビヤホールでは身動きが取れないほどの大勢の人々がビールを飲んでいた。そこにはバイル州政府の閣僚や将軍。右派の代表者が集まっていた。
その頃ヒトラーの率いる突撃隊がこのビヤホールへ進軍していた…
やがてビヤホールの壇上へ当時ビヤホールを総督していたカールが演説を行っていた。
「だいたい、あのバカな集まりの中央政府とどうして我々が一緒にやっていけるのでしょう。答えは絶対、ナインだけです…」
その時、突如武装集団がなだれ込んだ
(どけどけどけーっ!!!!)
やがてヒトラーが壇上へ立ち、上空へ威嚇射撃を行った。
「たった今、国民革命は開始された。この会場は600名の完全武装した兵士によって包囲されている! 誰一人としてこの会場から出ることは許されない!」
周囲にはどよめきと悲鳴が上がった。
「静まれ!直ちに静粛しないと、後方に置いた機関銃が火を吹くぞ! 今や!バイル州を含むプライセン中央政府は解体され、臨時政府が置かれた。 国防軍と警察署は占領された!軍隊と警察は…ソードスターの旗の下…首都へ向かって進撃中である!」
この時ヒトラーは、かつて自分が34歳の頃に行った手法で再び革命を起こした。群衆は呆気に取られて事態を眺めていた。
「カール氏・エマヌエル氏・カイザー氏はこちらへ。」
ヒトラーは奥のワイン保存庫へ三人を連れた。
「この部屋から許可なく出るものは、俺が許さぬ。諸君は私の指示に従わねば撃ち殺される。カール氏はバイルの州副知事・エマヌエル将軍は中央政府の軍相・カイザー氏はプライセン警察庁長官になる。いいね!」
三人は沈黙を通した。
「返事はないのか。この銃には四発の弾がある。三発は君たちを、残りの一つは私自身のためだ。」
「ヒトラー君。私は生きるか死ぬかなどどうでも良い。だがこれは理にかなっていないだろう。」
「そうだ。警察へ対して君はデモの許可を求めていない。これは規則違反だ。」
「それは許してほしい。未来のためだ。」
「未来って言ってもなぁ…」
「黙れ!私語は許さん!」
ヒトラーは一人で説得したが、三人は聞く耳を持たなかった。
彼が銃口を突きつけても、説得に応じずヒトラーと組むことはしなかった。
その頃、リヒターがルーデンベルグ最高司令官を連れてきた。
「将軍、この革命には彼らの協力が必要なのです。」
「諸君。今や重大な国家的問題である。君たちが賛同せねばこの国は終わる。」
ルーデンベルグの口添えにより、彼らも渋々協力した。
ヒトラーは思わず喜びの笑い声を漏らした。
彼は壇上へ引き返し、群衆へ挨拶した。
それはまるで、成功者が過去を振り返るようだった。
「私は昔、自分に誓ったことをここで果たそうと思う。中央政府の犯罪者どもを駆逐し、現在の悲惨なプライセンの廃墟の上に再び、偉大な祖国を再建するまでは休むことも惜しまない!」
その後、突撃隊が中央政府から派遣された軍と衝突を起こしたというニュースが入ってきた。ヒトラーは過去を振り返って、自身は向かわずルーデンベルグ氏を向かわせた。まず、エマヌエルが脱出を図った。
「ヒトラー君、私は少し用をたしに行きたい。構わんかね。」
「待て、なら護衛の兵をつける。」
「いやいや、トイレはすぐそこだし各所に兵を配置している。構わん。」
ルーデンベルグ氏が帰った時には、既に三人は消えていた。
「これは一体、どういうことかね。」
「過去から何も学ばなかった愚かな私に責任がある…」
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