第一章 異世界転生編

第一話 異世界での我が闘争

状況を整理しよう。

まず、総統官邸の地下壕で私とエヴァは死んだ。だが私だけが、この意味不明な異世界に転生した。

先程のやりとりを思い出してこの国について知ってることを整理すると、政治体制は共和制で、国内の通貨の価値は値上がりしている。国民は政府に対して不満は無い…


「むむむ…ひとまず私に必要な事は、この国の通貨と住む場所…あとは職…一先ず街を歩くしかないか…」


人混みを避けて街を出る。すると各地で、民衆が一定の群れを成していた。

一つの群れの中に入ると、中央では一人の男が今の政府へ不満を言っていた。


「今のこの共和国政府は腐っている!他国へはへり下り、税を高くして政治家たちは肥える一方だ!今こそこの政治体制は破壊されるべきなんだ!」


そうだそうだと周りの人も言う。どうやらこの世界も、ナチスの様な政党がいるらしい…どうせならこの政党に入党して…


「我が共産党は!人々の完全な平等!差別の排除!充実した雇用制度と医療制度!他国との平和な外交を目指している!どうか我が党へ一票を!」


危ない危ない。危うくアカどもの仲間になるところだった。

他の群れにも入ってみるが、どれもこれもマシな政策を訴えていない。与党である共和党の集会に行ってみたが、はっきり言って駄目だった。


「やはり普通の職に就くべきだろうか…」


そう思っていたその時、地下に続く階段の奥から声が聞こえてきた。


「我々は知っている!人間は他の種族より優秀だと!そして、下劣な下等民族の言いなりにはなってはいけない事を!我が国家労働党は、国の為にその命を差し出し、国に尽くす諸君らを募集している!」


ほら、やはりいるじゃないか!熱心な国家社会主義者が!


階段を降りると、ジメジメした小汚い酒場があった。

店主に聞くと、この先の小さなホールらしい。ホールには6人の男がいた。


「どうして誰もわからないんだ!この国はいずれ、他の種族共に操られてしまうぞ…!くそッ…」


「悩んでいるところすまない。私はアドルフ・ヒトラー。君たちの演説に心を打たれてしまった。入党したいのだが、よろしいかね?」


男たちはキョトンとしていた。しかし、すぐに私の手を握ってきた。


「おお!それはありがたい!何せ人の少ない政党でね…君が7人目の党員だよ!」


「ようこそヒトラーさん。党首のファウルです。いやあ、貴方のような人が来てくれて光栄ですよ。ああ、彼は党設立者のフェローです。」


「フェローです。よろしく。」


その他にも、元軍人のレヌや薬剤師のドレクッス。画家のエカルテ・新聞記者カラー・経済学者のヴェーダーがいた。


「皆様はこれまでにどの様な活動を?」


「ええ。こうした地下ホールを借りて細々と演説をしております。何せ共和国政府からは我々は目をつけられているので…」


「とすると、何か大きなデモをおやりに?」


「はい。賊や労働者を集めてストライキを…」


ふむ。これは良い。私の入った頃と同じのようだ。

ならば、第二の人生でも私は政治家をやらねばならんな。


「分かりました。とにかく今は民衆が我々の演説を聞かなくてはなりません。ビラを配って人々を集めましょう。後は新聞の広告にも載せるべきです。」


数日後…


「人々が集まってきました!」


やはり。民衆を集めるには一番多く人目がつくやり方でなければ…


「演説は私で宜しいでしょうか?」


「ええ。お願いします。」


ヒトラーが登壇に上がると、集まってきた民衆は拍手喝采だ。

だが彼は、人々が拍手や小言を話すのをやめるまで、静かに立っていた。これは彼の演説の手段である。こうすることによって、全ての民衆が彼の話を聞くのを彼は待っているのである。


「おい…やはり緊張してるんじゃ無いのか?」


「そうだな…やはり口だけか…?」


三分ほど経って、彼は完全に場が静まったのを確認する。

そして、第一声を放った。


「共和国政府は腐っている。私はこの国の政治は、最早手の付けようが無いと分かっている。だが政府の奴らはそれを見て見ぬふりをしている。今も続く物価や、インフレ間近のこの国は、いつか滅亡するだろう。最も、その腐敗化を進めているのは、エルフや獣族などといった亜種なのだ!目覚めよ人間よ!今こそ奴らを駆逐し、新たな共和国を人間だけで治めようではないか!」


ワァーッ!!!!! そうだ!その通りだ!


「こ…これほどまでとは…」


演説後、民衆が挙って党への寄付をしたお陰で党の財政は救われた。

翌日、ヒトラーはもっと大きなホールで演説を行う事にした。


「狂人じゃないのか。先日の演説が成功したからといって、今日も当たるとは限らないだろう。」


「本当、彼の行動力はおったまげるねえ。」


「この前100人来たからと言って2000人も来ると思うか。金だって馬鹿にならない。妄想狂だろう。」


「あ、みんな。会場の方は話がついたからね。」


彼らが談話していると、ヒトラーが来た。

ファウルは懐疑的に彼に話しかけた。


「大丈夫かね、ヒトラー君。」


「大丈夫だファウル党首。今こそ弱小政党である我々が殻を破って大躍進する時がきたのだよ。」


「悪いが僕はヒトラー君にはついていけない。僕は辞めさせてもらう。」


党首が辞めた事により、ドレックスがこれに変わったが彼も半信半疑だった。


だが、演説は大成功だった。やがて国家社会主義プライセン労働者党が誕生した。そしてヒトラーは、一部の軍人を用いて武装自警団を作った。彼は自警団を率いて反対派の演説や共産党へ殴り込みに行った。彼は一時は捕まえられたが、これにより国内ではヒトラーの人気が高まった。


ヒトラーが出所した時、一人の青年が彼の元を訪れた。


「ヒトラー先生。私はノア・ヘルという者です。大学休学中に先生の演説を聞き、私なりの論文を送らせて頂いた者なのですが。」


「ああ、あれ。この「共和国を導いてかつての偉大性を回復する人物はどのようにあるべきか」という論文だろう。これには僕も感動したよ。昔君みたいな人物に会っていたからね。君のいう通り、民衆の内の一人が独裁権を握り国を救うのだよ。」


「先生。私も入党し、国のために働かせてください。」


「ああ。共に頑張ろう。」


_____________________


ヒトラーは兼ねてから、この党のシンボルマークを探していた。

そこへカラーが一つの案を持ってきた。


「これはどうでしょう。一つの剣に右と左から羽を生やし、剣先には星を置くこのマーク。俗に言うフルール・ドゥアル・ソードです。」


「私の考えには沿っている。シンボルとしてはまさにこれだ!」


それから数日後


「ヒトラー氏は変なものを色々作っているが大丈夫か?旗や装飾品など早すぎるだろう。」


「それに俺たちを差し置いて独裁者になってしまっている。」


「どうだろうか。支部長のシューゲントと組めば彼の力も弱くなる。」


「そりゃいいや。彼奴に分からせてやろう。幸い奴は地方演説の真っ最中だ。」


ヒトラーは分かっていた。過去にも同じ事で党の分裂があり、今回もそうなると思っていた。

彼はすぐに党本部に引き返し、早速委員会を招集した。


「諸君。私はこの党を離党しようと思う。」


突然の爆弾発言に、反ヒトラー派も困ってしまった。


「それゃだめだ! 党の資金の大部分は彼が賄っていたんだ、彼がいなくなれば党は破産する!」


「党を抜けるのはよしてください。」


「ならば私の要求を呑んでほしい。私を唯一の指導者とし独裁権を与える事。死して委員会は廃止する。 私が総裁となり、ドレックス君は名誉総裁となる。いいね。」


数日後のち…


「これが本当の姿です…僅かですがポケットにも…」


「いやいや。ヒューゲン君には寄付してばかりいてもらって恐縮だよ。」


ヒューゲン先生は金持ちの未亡人と再婚したお陰で金に余裕があった。エカルテとレヌは、共和国政府が圧力で廃止させた新聞社を買収し党の機関紙にした。

共和国暦2022年4月 隣国のリーグレ共和国は再び悪化した外交関係を皮切りに続々と関税を値上がりしてきたので、プライセン中は大騒ぎになった。ヒトラーは各地で集会を開き、党員はますます増えていった。


11月4日のこと…


「総裁、大変です。 共産党が暴力団や労働者を我々の演説会場に送り込んで叩き潰すという情報が入りました。」


「そうか…粛清隊(自衛団)は何人いる?」


「46名がおります。」


「全員、地下によびたまえ。」


地下会合室


「諸君は今日、これまでにないほどの大事件にぶつかるであろう…諸君は殺されて担ぎ出されない限り会場を出てはいけない。無論私も残るつもりだ。私は諸君が一人でも私を捨てる者はいないと信じている。奴らが少しでも暴力解散に動き出したら構わず攻撃しろ。」


夜になって、ヒトラーが演説を始めた。


「この国には今や二つの選択肢しかない!それは、未来か没落かだ!」


「腹に大穴空かせてやれ! 二度とその口開けねえ様にしてやる。」


“やれっ!!!” という合図と共に、ヘルたちと血みどろの殴り合いが始まった。

数分後、突如会場の入り口から演壇目がけて魔法による攻撃が行われた。小さなクリスタルが、会場内をぐるぐると回りながら無差別に人に落ちていった…


ヒトラーは演壇に立ちながら、弾雨の中でじっと味方の活躍を見ていた…

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