異世界の鉄十字
ミア・スターリング
プロローグ 青い空
ドイツは負けた。
二度も大戦を始めて、二度も戦いに負けた。
二度もの大戦を経験した彼にとってしてみれば、死ぬことなんぞ恐怖ではない。寧ろ、自分の体が敵に渡るのはごめん被る。
それにしても、戦争中だというのなぜ人々の声が聞こえる?
敵が引いたのか?それとも勝ったのか?
いや、もしかしたら敵の本拠地へ連れてかれたのだろう。目を開けるものか。
けれど…本当に勝ったとしたら…?そんな好奇心が、目を開かせた。
「さあさあ!そこのご婦人!おひとつどうだね!」
「今ならアクセサリーが安いよ!三つで1オンド!どうだい!」
これは…なんだ?もしや、既に敵には打ち勝っているのか?
ならこんなところに長居は無用だ。早く総統官邸に帰らねば…
………どこへ? 見渡す限りブランデンブルク門も無ければハーケンクロイツも、ナチスの党旗も、何一つない。やはりドイツは負けて、敵にベルリンを破壊されたのか?しかし彼らはドイツ語を喋っている…だが通貨はマルクではない…此処はドイツなのか…?
小さい新聞屋を見つけたので、新聞を手に取って確かめる。
紙面にはドイツ語が書かれているので読むのには問題ないが、問題は書かれている内容だった。
【共和国政府は新たな法令として人種・性別の差別化を無くすべく生物平等法を成立 オンド値上がり、3年ぶり 大総統は外交でリーグレ共和国との貿易摩擦を解消することに成功】
極め付けは何と言っても国名と年だった。
【共和暦2021 8月30日 プライセン共和国 タイムス誌】
「お客さん!新聞は50ペンヒだよ!」
「な、なあ…この新聞は本当か…?」
「何言ってるんだい。共和国政府公認の新聞に嘘なんか書いてないよ。」
そう聞いた時、ヒトラーは倒れてしまった。
「うう〜ん…」
次に目が覚めた時は部屋の中にいた。雑誌や新聞で埋め尽くされた床、机の上には時計とカレンダー、そして鷲ではなく鷹の置物。
「気がついたか?あんた、相当参ってたんだな。かれこれ五時間は寝てたよ。」
「ああ…それはすまなかった。後で礼を渡そう…所で君にいくつか聞きたいんだ…ソ連軍はどこに行った…?」
「ソ連?何のことだい。ああ、ブリヤート連邦なら聞いたことあるけどね。あんたはそこからきたのかい?」
「いや…私はドイツから来た…それより此処はどこなんだ?」
「此処はプライセン共和国だよ。その首都ベルランだ。そんなことも知らないのかい?」
ベルラン…?ベルリンに名前が似ている。だがしかし…
「いや…もういい。大丈夫そうだ。すまなかったな。」
逃げるように店を飛び出した。改めて街の様子を見てみれば、行き交う人の中には人間でない姿の者もいる。つまり…
「此処は…俗に言う異世界か…」
果たして、異世界に現れた独裁者。アドルフ・ヒトラーはこの世界でどうするのだろうか…?
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