美人姉妹だが、性格はまるで正反対
あまりに口の悪い、罵詈雑言なお姉さんの登場に、俺達はただただ震えて竦むことしかできなかった。
そう、まるで蛇に睨まれたカエルのように、怯えて固まって硬直していた。
「ところで凪。アンタ、昨日は宇佐美ちゃんのところに泊まるって言ってたよね? 宇佐美ちゃんに連絡したら、いないって言われたんだけど、本当はどこに行ってたのさ?」
ビクッ———と大きく肩を揺らして、半泣き状態で必死に言い訳を探していたが、焦る時に限って良い答えが浮かばないものだ。
そもそも俺が一緒にいる時点で、バレバレなのだろうけど。
「な、なんで私の言うことを信じてくれないの? そもそもお姉ちゃんと宇佐美ちゃんは繋がってないのに」
「可愛い妹の写真を送ってくれって頼んだんだよ! 最初は渋っていたけど、送れない状況に白状した宇佐美ちゃんから聞き出したのよ! くそ、おい、テメェ! いつまで凪の側にいるんじゃ! さっさと離れろ、この野郎!」
見た目は美人姉妹なのに、性格が全く違い過ぎる! それとも凪も、猫をかぶっているだけでこんな性格なのか? 恐ろし過ぎる! こんな人がお義姉さんになるなんて、とてもじゃないが耐えられない。
「最近、休みのたびに出かけとったが、もしかしてそいつとデートに行ってたのか? 凪ィ、ちゃんとお姉ちゃんに教えんね⁉︎」
「あ、あの! ここじゃ、人の目がありますから、家で話しませんか?」
少しでも宥めようと思ったのだが逆効果だったらしく、凪姉はますます憤怒状態に陥った。
「あァン? 何でテメェに指図されないといけないんだァ? オメェ、この流れでウチに上がり込もうとしてるんだろ? そんなこと私が許すとでも思ったのか? 可愛い妹に手を出した不届き者め……っ! 絶対にアンタを許さないからね!」
うわっ、大きく手を振り上げて、今にも殴りかかりそうな勢いだ。驚いた凪は庇うように前に出たが、その行動も怒りに油を注いだだけだったようだ。
「なーぎィー! 何でそんな奴を庇うの! お姉ちゃんは可愛いアンタを殴れないのを知ってて……! うぅぅ、どきなさい! 今すぐどきなさい!」
「ヤダヤダ、絶対にどかないもん! 先輩、今のうちに行ってください! お姉ちゃんは私が説得しますから!」
説得できるものなのか?
確かに俺がいたところで何もできないだろうけど、このまま逃げるのは男として情けない。
「あの、お姉さん! また今度、ちゃんと挨拶に伺いますので」
「二度と顔を見せるな、このクソ野郎! 私の可愛い凪ちゃんに二度と近付くな!」
無理、取りつく島が全くない!
ただでさえ交際出来ない立場だというのに、お互いの家族にも嫌われ、俺達は途方に暮れていた。
怒りの沸点が振り切れたお姉さんのことは凪に任せて、俺は俺で父親の説得に当たった。
俺の方が最終的に分かってもらえたのだが、それでも渋々だった。やはり千石さんとの写真が決め手だったようだ。
「今回の写真は雑誌の企画だったのかもしれないが、これからもそういったシーンを撮ることがあるんだろう? 父さんは正直、心には普通の恋愛をして欲しいんだ。だから彼女のことは諦めて欲しいと思ってるよ」
正直、言葉に詰まってしまった。
千石さんとの写真は頭で分かっていても、俺も良い感情は湧かないからだ。
場合によっては、これよりも過激な写真をとることも増えるかもしれない。
その時俺は受け止め切れるか……。そう聞かれても、素直に「はい」とは言えなかった。
「心も凪さんもまだ若いんだ。よく考えて答えを出しなさい」
そして凪の方も、絶対に認めないの一点張りだったと嘆きながら報告された。
「お姉ちゃんはね、凪ちゃんのことが心配で言ってるんだよ? あんな根暗そうな男と付き合っても、次第にネチっちこくなって凪ちゃんが嫌な思いをするんじゃないかなーってね」
「そんなことないよ、お姉ちゃん。心先輩はとても良い人で、私が傷つくようなことはしないよ?」
「それが幻想っていうのよ! 男は皆、狼なのよ? 優しいことがを吐いて、油断したところをガブって食ってくるのが奴らの手なのよ?」
むしろ私は手を出してもらいたいくらいだったのに、先輩は紳士だった。そんな先輩の気持ちも知らないで、勝手なことばかり口にするお姉ちゃんに怒りを覚え始めた。
「もうお姉ちゃん! 心先輩は私の大好きな人なんだから悪く言わないでよ!」
「好きィ……? ちょっと凪ちゃん、お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないのに!」
「もうお姉ちゃんのことなんて知らない! お姉ちゃんのばかー!」
凪の言葉に相当大きなダメージを負ったお姉ちゃんを置いて、凪は自室に籠り出した。
「そりゃ、嘘をついて泊まった私が悪いけど、あんなに言わなくてもいいのに……」
二人は喜ばしくない結果を、どう伝えようか悩んでいた。
このままでは確実に嫌な思いをさせてしまう。
「「私達(俺達)、別れた方がいいのかな……」」
あまりの状況に、つい弱音がこぼれてしまう。
せっかくの朝までは幸せな気分だったのに、すっかり台無しになってしまった。
二人はやり場のない怒りを胸に抱きしめながら、そっと目を瞑った。
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