こんな日が来るなんて、一体誰が想像しただろう?

 凪とお付き合いして、初めての週末を迎えた。


 彼氏彼女になって初めての家デート。

 俺は塵、埃一つ残さずに、隅々まで吹き上げ清掃を終えて用意した。

 ファブリーズで除菌済み、クッションも洗濯済み。そして万が一お泊まりすることになった時の為に、ゲストルームも準理完了だ。


「これでもう、いつ来ても大丈夫だ」


 約束の時間まであと15分。

 高鳴る心音、滲む手汗。

 ちゃんと歯磨きもシャワーも済ませたし、スネ毛のムダ毛処理も済ませた。


 大丈夫だ、問題ない。あとは待つのみ———


(ピンポーン)


 来た、キタキタキター!

 インターフォンを覗き見ると、そこには大量の荷物を持った凪が立っていた。

 こんな暑い中、そんな大荷物で来るなんて思ってもいなかった。こんなことなら迎えに行ったのに。


 慌ててドアを開けると、少し驚いた顔の彼女が待っていた。白いノースリーブのワンピース。裾がヒラヒラと揺らめいて胸がときめいた。


「先輩、こんにちは。今日はお邪魔しますね」

「ど、どうぞ」


 緊張で声が裏返りそうだ。

 しかし、それは仕方ない。


 あの凪が、俺の居住空間にいるんだ。

 夢なんじゃないだろうか? 俺はずっと長い夢を見ているんじゃないだろうか?

 あの図書館のくだりからずっと、都合のいい夢を見ているのかもしれない。


 顔のニヤニヤが止まらない。

 きっと今の俺は、史上最悪に情けない顔をしているに違いない。


「これ、お招き頂いたお礼に。私の大好きなケーキを買ってきました。紅茶も一緒に買ってきたので飲みましょうね」

「え、こんなに? 気を使わなくても良かったのに……二人で食べきれないだろ?」

「へへ、ついつい。先輩とずっと一緒にいれる思ったら、たくさん買っちゃいました」


 甘党の凪、可愛いから許す。


 だがそれとは別にスーパーの袋に大量の食材が見えたのだが、それは何だ? お使いか?


「これは、先輩にご飯を作ってあげようかなって思って。シチューとか好きですか?」

「え、シチュー?」


 好き、大好き。たった今、好きな食べ物一位に浮上した。

 彼女の手料理を食べれるなんて、なんて贅沢な彼氏なんだ。


「ちゃんとエプロンも持ってきたので、任せて下さいね♪ それにしてもホテルみたいに綺麗な部屋ですね。ここが先輩のお家……ドキドキする」


 凪は両頬を手で押さえて、必死に笑みを堪えてた。

 可愛すぎるだろう、俺の彼女……!


「自分家だと思って、ゆっくりしてくれ。何でも用意してるから! まず飲み物は? 何がいい? お茶? 紅茶? コーヒー? それともジュース?」

「私が淹れますよ! 丁度買ってきた紅茶があるので用意しますね」


 彼女は持参したエプロンを取り出して、支度を始めた。普段男しかいない空間に、凪がいる。それが不思議な光景で胸が苦しくなる。


「せっかくだし、ゆっくりしろって。冷蔵庫にジュースもあるから、それを飲もう」


 何が好きか分からなかったので、手当たり次第に買ったジュースを取り出して、彼女を手招きした。


「ありがとうございます。それじゃ皿にケーキを出して持っていきますね」


 眩しい笑顔を向けて、素直に近づいてくる彼女が愛らしい。


「そういや俺も一応用意してたんだけど……凪は苦手な果物とかある?」

「いえ、特にはないですけど?」


 本当は食事の後にでも出そうと思っていたが、せっかくなら一緒に盛ろう。

 凪が買ってきたケーキにクリームとフルーツを一緒に添えると、より一層豪華に仕上がった。


「わっ、ハイクオリティ! 先輩、写真! 写真撮りましょ‼︎」

「そんなはしゃぐほどか? 待って、今撮るから」


 とは言いつつ、子供のようにはしゃぐ凪を見て、俺も内心ハイテンションに興奮していた。

 まさかこんなに喜んでくれると思っていなかった。嬉しいな、買って来て良かった。


 他にも彼女と一緒に楽しめるゲームや映画も用意した。今日は全力で彼女をおもてなしする!


 こうして人生初の家デートは最高のスタートを切り出した。



 ———だが、楽しい時間が経てば経つほど、気がかりになってくるのが、その後だった。


 あの時は気軽に「泊まれば?」って言ったが、凪は本当に泊まるのだろうか?


 そもそも凪のご家族にお付き合いのご挨拶もしていないのに、いいのだろうか?


「えっと、一応……親には宇佐美ちゃんの家でお泊まり会をするって言って来たんですけど」


 緊迫した空気が漂う。

 凪の言葉の真意は、さすがの俺でも理解した。


「泊まっていっても……いいんですか?」


 いいも何も、俺が言い出したことだ。

 幸いゲストルームを用意したから、そこに泊まれば何も問題ない。


「一緒にいれる時間が長くなって嬉しいよ。凪も気を使わないで、自分家にいる時のようにくつろいでくれよ?」

「エヘヘ、お言葉に甘えて……それじゃ、私がご飯を作ってる間にお風呂に行きますか?」

「え?」


 ふ、風呂?

 思いがけないワードに、大袈裟なほど取り乱してしまった。


「あ、先輩は寝る前に入る派ですか? それじゃ、ご飯が先? それとも……」


 待て、これは———よくあるあの質問か?

 お風呂? ご飯? それとも……私?


「お風呂、お風呂! お風呂に入ってきます!」


 空気に耐えられず、逃げるように脱衣所に来てしまったが、お泊まりってことはそうなのか!


「湯上がり凪も独占できるのか……っ!」


 私服にエプロン姿、そしてパジャマ姿。いろんな彼女が見れるなんて、俺は我慢できるのだろうか?


 やばい、もう既にキャパオーバーなのだが?

 素数を数えながら必死に心を落ち着かせたが、無理だ。さっきから色んな凪が頭の中を支配する。


「くっ、楽しいままで終わっていれば良かった……!」


 過去の俺、なんてことを口にしたんだ!

 頭から冷水をかけて、必死に耐えたが無理だった。


 そして俺はいつもの2倍の時間をかけて、お風呂を済ませてキッチンへと向かった。




 ———……★

 おウチデート編、楽しいです。

 この小説も、とうとう描写ありのタグをつける日が来るのでしょうか?

 プラトニックな二人も好きなんですが、このままも焦ったいw


 そして皆様の応援、レビューなどよろしくお願いいたします! いつも励まされてます!ありがとうございます!

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