第18話 そつない君とお出かけ④
化粧品を購入した後、再び紀美野の先導に従って施設内を歩く。日曜日のイオンだけあって、なかなかの人の数である。
家族連れ、学生、老人、走り回る子供。さまざまな人の合間をすり抜けていく中で、気づくことがある。
「(うーん、注目浴びてんなあ…)」
年齢、目的も違う人混みの視線を、俺たちはかなり集めてしまっていた。
「(俺たちは、語弊があるな…こいつらか)」
隣に並ぶ三人の女子を順繰りに眺める。
まずは、紀美野咲葉。ベージュに近い色に染められたセミロングの髪に、可愛らしい顔立ち。袖にボリュームのある白いブラウスに、キャメル色のジャンパースカートを合わせている。
ブラウスの生地越しでもわかる、とある部分の主張のせいで、すれ違う男がチラリとみているのが隣の俺にすらわかる。
そして、その紀美野にベタベタ触られて困ったように笑っているのが、紀伊薫。150cm前後の身長に、ショートボブの生来のものらしい茶色の髪、あどけなさの残る童顔。大きな目が小動物を思わせる。
白と青のボーダーのロンTに、濃いめの色のデニムパンツ。服装は地味なのに、化粧のせいか今日は表情に華があるように感じる。
最後に、新宮蛍。正直言って、視線を集める原因の大半はこいつだ。光を反射しないんじゃないかと思うほどの漆黒の髪。それと対比されるかのような純白の肌。顔立ち、体、全てが完璧に均整が取れていると言っても過言ではない。
特に飾らなくても良いと判断するのも頷けるその容姿に、今日はさらに磨きがかかっているのだ。衆目の目を集めているのも仕方ない。中身を知っている俺ですら、見惚れそうになるのだ。悔しいから、絶対にそうはなってやらないが。
数々の目線に、厄介なことが起きなければ良いと思いながら歩いていると、唐突に紀美野が立ち止まる。
「さて、次はここだよ!」
そういって指差したのは、カジュアルな有名アパレルショップだった。学生なら、誰しも一度は足を踏み入れるんじゃないだろうか。
「服屋さん?」
「そう。化粧の次はファッションだよ!」
やはり流行りのコスメと同様に、ファッションのトレンドの話題は頻出する。紀美野の理論なら、恐らくそうだろうと思っていたので、特に驚きはない。
確かに、紀伊さんのファッションは特にダサいというわけではないが、一切個性が無い。女子は、ファッションの系統がグループのメンバーと被らないようにすることもあるため、個性を作っておくのは悪いことでは無いと思う。
「さーて、みんなできーちゃんを着飾っちゃおう!」
最早反抗の声を上げることもない俺と新宮の隣で、やはり紀伊さんは複雑そうな顔をしていた。着せ替え人形、やだよね。わかる。
とりあえず、各々それなりに広い店内に散らばり、紀伊さんに似合いそうなものを探して、コーデ一式を持って集合ということになった。
お題は、春から夏にかけての服装だそうだ。
「うーん…」
サイズ感云々はさておき、サラッと振られたが、普通に悩む問題だ。もしも、持っていったものがダサかったら、そつない君としてまずいのだ。
俺はある程度服が好きだし見た目にも気を遣っている…と思う。だとしても、自分のコーディネートと他人のコーディネートは違うのだ。美羽姉に付き合わされた経験を生かしてなんとかするしかない。
「…こんな感じでいっか」
目をつけた衣類を手に取って、周りを見渡す。紀伊さんは、ぼんやりと椅子に座っていて、紀美野はすでにその前に居て、新宮も大体の目星はついていそうなので、ちょうど良いだろう。
「お、そつない君も出来たー?楽しみかも、男子目線のコーディネート」
「お手柔らかに」
「大丈夫だってー。修介君もそつない君のことおしゃれだって言ってたし。期待してる」
多分、それは七割型美羽姉の功績なので勘弁してほしい。
「待たせわね」
そんな雑談の切れ間に、新宮がそんな強キャラじみた言葉と共にやってきたところで、準備は完了といったところだろうか。
あとは、紀伊さんに試着室で着替えてもらうだけだ。
********************
「きーちゃん、準備出来た?」
さて、エントリーナンバー1。紀美野のコーディネートである。
「ど、どう?」
紀美野の声に応じて、控え目なカーテンの開く音がする。分かるよ、試着を誰かに見せるの恥ずかしいよね。
「おー…」
「やっぱりきーちゃんに似合ってる!」
紀美野が選んだのは、空色のオーバーサイズのパーカーにくすんだ白のワイドパンツを合わせたコーデだった。アクセントとして、黒のキャップを被せている。靴はシンプルなローカットのコンバース。
「ゆるいけれど、スポーティーさもあるのね」
「そう!うちのグループ、スポーティーな格好する人いないから、良いかなーって。色はかわいい目にして、パーカーのサイズも緩いから、活発的になりすぎないのも良いかなって」
「うん。これなら、私も着られてる感なくて嬉しいかも…」
「ふふ…きーちゃんとの付き合いの長さ的に、この勝負は負けられないからね!」
「いつから勝負になったんだ」
「さて、次は私ね」
エントリーナンバー2。新宮だ。選んだのは、青のストライプのワンピース。時間がかかっていると思ったら、どうやらアクセサリー類まで用意していたらしい。
耳元でささやかな主張をするピンクゴールドのイヤリングに、腕には細いチェーンの同色のブレスレット。足元は、上品さがある白のハイカットのスニーカー。
「なんか、ほたるんっぽい…」
「私が選んだんだから当然…というか、そのほたるんという呼び名続けるつもりかしら…」
「…私には大人っぽすぎない?」
「そうでもないよ。可愛らしさと、爽やかさの中間って感じでよく馴染んでるよ」
「すけこまし君の言う通りよ。アクセサリーで上品さも出してるから、よく似合ってるわ」
俺たちの言葉の真偽を確かめるように、紀伊さんは背後の鏡と睨めっこしている。にしても、やはり選ぶ人の性格が出ている気がする。紀美野のコーデには、グループ内で被らないことへの気遣いが。新宮は挑戦してでも似合うものを。
あと、ついでにだが、もうすけこまし君にはつっこまない。
「(じゃあ、俺のには何が出てるのかね…)」
そんなことを思いながらも、紀伊さんに服を渡した。
「さて、最後ね」
「紀伊さん。準備出来た?」
「う、うん」
カーテンが開く。とりあえず、一目見て思ったのは、きちんと想像通りに似合っていてよかったというものだった。
「あ、可愛いー!」
「これ、良いかも」
「なんか、案外センスがいいのがムカつくわね…」
俺が渡したのは、シンプルな白のTシャツに、ライトグリーンのサマーカーディガン。それに、白とグリーンを基調としたチェックスカートだった。靴は合うものがわからなかったので、シンプルなキャンバススニーカーにしておいた。
「あと、これ。紀美野のを見て、紀伊さんって帽子似合うんだなと思って」
さっき紀伊さんが着替えている間に、取りに行っておいたのだ。それなりに個性になって、紀伊さんに似合いそうなもの。
「キャスケット帽?」
「確かに似合う…!」
「なんか、絵描きっぽい…かも」
俺が渡したのは、薄いブラウンのキャスケット帽。目論見通り、紀伊さんの髪色にも映えていい感じな気がする。
「服も、森ガールっぽくてきーちゃんに合ってるかも」
「でも、狙いすぎじゃないかしら?」
「きーちゃんだと、それであざとくならない気も…」
「とりあえず、賛否あるとしても賛成の意見があってよかったよ」
失敗は避けられたよう胸を撫で下ろす。あとは紀伊さんの好み次第だ。
「うーん…」
*******
「思ったより丸い結果になったな」
「あはは…まあ、全部良かったってことで」
「なんだか納得いかないわ…」
「な、なんかごめん、ね?」
結局紀伊さんは、紀美野が選んだパーカーに新宮の選んだイヤリング、俺の選んだスカートとキャスケット帽を購入していた。各パーツに合わせる分はお小遣いの問題もあって、今度買いに来るらしい。
「次、どうするんだ?まだ行くところあるんだろ?」
「うん、あるけど…とりあえずお昼ご飯にしない?お腹減っちゃって」
「フードコートでいいかしら?」
イオンは三階にフードコートがあるが、ちょうど待ち合わせ場所だった正面玄関の外辺りには、落ち着いた個人店なんかもあったりする。
「うん…私も服とかでお小遣いが怪しいから、フードコートの方が助かるかも」
「じゃあ、そうしよ!」
正直、個人的には確実にごった返しているであろうフードコートより、外の方が良かったのだが、わがままは言えない。
「混んでるわね…」
「俺が席探して取ってるから、三人は先に並んできたら?場所は連絡するよ」
「え、いいの?」
「ありがとう」
気にするなという風に手を振ると、席を探す。幸い、少し探したところで家族連れが立ち上がったので、四人席を確保する。
人混みとざわめきと連日の精神負担による蓄積疲労で、ついため息をついてしまう。まだ、今日一日は長いのだと、そう気づかないようにして、紀美野に席の場所を伝えるメッセージを送った。
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きーちゃん「(すけこまし君…?)
紀美野「(ほたるんってあだ名のセンスないのかなあ…)」
ほたるん「(今日も言葉のキレが冴えてるわね)」
そつない君の青春は、そつなくこなせない 深崎藍一 @45104714510471
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