第14話 眠るあなた

 セカセカと帰るから、怪しいと思って部屋まで来てみて正解だった。やたらと規則正しいというか、しっかりとした生活をしている星君が、こんな時間に寝ているということは、やはり体調が悪いのだろう。


 私は知っている。この人は、変な時間に寝てしまうと、三時間はテコでも起きないということを。子供の頃、寝ている好きにイタズラをしようとして見つけた法則なのだ。

 だから、私は躊躇わずに頬に触れた。目を覚ます気配は一切ない。身じろぎもしない。


 中学時代は、寝ている星君の目にかかった前髪を優しく払い退けてやるのが、密かな趣味だった。でも、今の彼の前髪は短くて、そんな必要もない。少し悪い目つきを縁取る長いまつ毛がはっきりと見える。


 私も変わった。君も変わった。


 それでも変わらないものを、寝顔で確かめた。


「星君が疲れてるのも、元を辿れば全部私のせいだよね。でも、絶対に星君はそうじゃないって言うから」


 持ちつ持たれつの幼馴染。私が姉役で、君が弟役。


 優しい弟は、姉のために無理をしている。彼のおかげで、私は普通でいられている。変わっても、変わらないものを維持していられる。


 返せるものを、探している。いつも、探している。その癖、星君は私に負い目を感じさせないように、弱みをひた隠す。


 でも、隠されてやらない。


 自分の罪を見つめ続けることが、あなたの優しいカッコ付けを見破ることが、せめて私にできることだと思うから。


 解けたタオルケットを、しっかりと体にかけ直すと、部屋を出た。ちょうど一階から扉が開く音がする。


「あれ?お姉ちゃん?」


「おかえりなさい」


 私は人差し指を唇に当てながら「しー」と呟く。何かを察したのか、白星ちゃんは小声で「ただいま」と返すと、洗面所へ消えていく。


 自分の家へ帰ろうとして、ふと思い出す。今は六時半。星君が眠りについたのが、恐らく五時ぐらいだろうから…


「ねえ、白星ちゃん」


「ん?」


「今日は晩ごはん、八時過ぎにちょうどできるように作ってあげて」


「なんで?」


「星君が、五時くらいに寝たから」


 私の返答に、白星ちゃんは大きく首を傾げた。どうやら、実の妹でも知らないことは多いらしい。


 私はそれに微笑みながらも「内緒」と呟いた。今日は、自分の家でご飯が待っている。


 私は、君の体調が悪いことなんて知らないから。


************************


気が向いたら、フォローなり☆評価してやってください。作者が喜びます。


そつない君〜から始めらないタイトルの時は別視点です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る