第28話 アンナ・ベアトリーチェ皇女

 一方、アンナと護衛騎士のリチャードは応接間にて話を続けていた。


 側妃たちも似たような姿をしているのが見えたりしているのがわかったのだ。

 その後、アレクサンドラ王女の護衛騎士が体調がすぐれないので、しばらくは部屋にいたいと伝言を伝えてくれた。


「そう。心配ね、今日はとても冷える日ですし。お風邪を引いているかもしれませんわね」

「慣れぬ土地ゆえにお疲れなのでしょうね」

「そうですね。お大事にとお伝えください」

「ありがとうございます。では失礼いたします」


 それから侍女たちが飲み物を持ってきてくれて、アンナもそれを口にすることにした。


 精霊たちも大丈夫だということを教えてくれているので、口にできているのはとても心強いと感じている。

 後ろに控えているリチャードに関しても護衛騎士団への復籍し、アンナの護衛騎士として騎士団の制服に身を包んでいる。


 その後に、側妃たちが部屋に戻り、次に侍女がこちらへとやってきたのだった。


「今晩ベアトリーチェ皇太后陛下のお部屋に」

「わかりました。ありがとうございます」


 それを聞いてベアトリーチェ皇太后の暮らす皇太后の間と言われる部屋に奥宮から向かうことにしたのだった。



 皇太后の間にいたのはベアトリーチェ皇太后と近い関係にある皇帝の側近や、皇帝の側近たちがこちらに来ているのが見えた。


「アンナ、こちらにおいで」


 紫色の瞳は慈愛に満ちており、彼女は愛しい孫娘の成長した姿を見て抱きしめていた。


「本当に、の子どもだわ。とてもうれしい……」


 それを言ったときにアンナは違和感を感じていた。


(おばあ様はなぜ、そのようなことを言うの? わたしがお父様の本当の子どもだとわかっているはずなのに……)


 その言葉を飲み込んで、彼女は祖母の隣にある長椅子に腰を下ろす。

 そのまま、側近たちと神官たちによる説明を行うことになったのだった。


 説明を始めたのは側近の一人である壮年の男性で、いかにも知的な雰囲気を持つ者だった。


「アンナ・ベアトリーチェ皇女殿下は正統な皇位継承権を持つ皇女として認められた場合、すぐさま立太子の儀を執り行うことになっております」

「そうですか。それを判断するのは一体誰でしょうか

「それは「白銀の銃』による神託になります」


 白銀の銃。


 言葉を聞いてアンナの心臓は大きく飛び跳ねていた。


 それは皇太子として証となる物であり、それを手にすることができた者は皇帝の跡を継ぐ者として神託が降りることになっているのだ。


「それはつまり……まだ疑っておられるのですね?」

「ええ、おそらくはまだ陛下の側近のなかでも、血筋に関して疑う者多くはないです。しかし、あなたの容姿から疑うことはないでしょう」


 アンナの容姿は両親から受け継がれたものであり、その青紫色の瞳をしている皇女が帰還したとなれば皇太子としての素質を感じるのではないかと感じる。


「そして、あなたの魔力、相当なものですね」

「鍛錬を積めば、ある程度の魔法は使えると言われています」


 アンナが皇太子なった場合はイリヤが第一皇子という身分になり、ゆくゆくは皇太子の補佐として側近になると説明があった。


 一生懸命政治に関しても学ぶ姿を短い間だが見ていたので、側近として残ってもらうことが良いのだろう。


「皇帝陛下の許可が下りれば全ての皇位継承権の儀式を行えます」

「そうですか。わかりました。それまでの間、皇女としての作法について教えを乞いたいのです」

「そうですか。かしこまりました」


 その翌日から礼儀作法などを皇太后付きの侍女を行うことにしたのだった。


 多忙ななかでも祖母との交流はとても大事にしており、精霊との接し方や操るための言葉を教わったりしていた。

 次に護身術のために騎士のリチャードに教わりながら、自らの武術についても上達させていくことをしていたのだった。


 さらに万が一、国で争いや戦争が起きた場合のために戦術などを最新の情報を確認することができるようになっている。

 その話題は遠い記憶に残っていて、幼い頃にかつての父がこうして戦術について教わっていた気がする。


 懐かしい記憶を感じていたが、同じように話している新しいことが見えたりしているんだ。


 知らせを聞いたときにアンナは驚いてしまったが、準備期間が短いなかで難しいことを考えている。


 そのときの表情は穏やかでとても温かい笑みを浮かべているのが見えたのだった。


 そんな記憶を見ていたが、いまの肖像画にはその面影すらもないと感じていた。


(お父様、なんで変わってしまったんだろう?)


 その疑問を抱えながら皇族としての知識や礼儀作法を叩きこんでいた。


 合間を縫って皇女と皇子たちとの交流が奥宮で行われ、エリン王国のアレクサンドラ王女はまだ体調を整えるのに時間を要しているとのことだった。


 快方に向かっているとは聞いているが、あまり声が出にくいと聞いているので心配ではある。


「アンナ姉様、あちらで遊びましょう」

「いいわよ。ジュリア、チェチーリア、ローザ」


 八歳の三人はとても嬉しそうに手を取って彼女と共に中庭へと出た。


 まるで姉のように慕ってくれている彼女たちはまだ血の運命というものを知らないまま育っているようだ。

 純粋無垢な彼女たちに皇族としての立場をわかっていない年齢だと感じる。


「姉様はとてもお優しいね」

「そうかしら? お姉様って言われても、上手く接し方がわからないわ」


 アンナは花の手入れをする三人に困りながら言う。

 実際に自分は一人っ子状態で育ったものだから、異母とはいえ妹たちが存在することに驚きを隠せていない。


「大丈夫! ローザたちは姉様がいてくれて楽しい」

「うん。姉様がずっといてほしいな」


 純粋な言葉にアンナは三人を黙って抱きしめていた。


 これから起こる悲劇をまだこの宮殿にいる者たちは知らない。

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