第27話 皇女と皇子、異国の王女

 ソフィア妃はすぐに結界を解き、子どもたちを呼ぶように侍女たちに告げた。


 するとそれぞれ母のそばに来て不安そうに見つめているのがわかるが、そのなかで少しだけアンナのことを見て表情が明るくなった。


「今日からここに暮らすアンナ様とエリン王国から来たアレクサンドラ王女殿下です」


 すると一番年上の十代の少年がこちらへやってきて、それが紺色の服に身を包んで皇太子の証である紫水晶アメジストの指輪をしているのが見えた。


「イリヤ・ルカ・レオナルド・ビアンキと申します。十四になります」


 彼は皇太子であり、現在皇位継承第一位の人物でもあることは変わらなかった。

 背はすでにアンナを追い越し、アレクサンダーに近いが顔立ちは成長する前後特有の中世的な雰囲気が出ている。


 顎のところで切り揃えられた白金髪と青い瞳は母であるソフィア妃によく似ていた。


異母妹いもうと異母弟おとうとを紹介します」


 そう言ってイリヤは手を繋いだ三人の皇女、どちらも似た面差しで年齢も同じくらいだ。


「右手側が双子の姉のチェチーリア、左手側が妹のジュリアンナ。二人はカミラ様が母君です。ジュリアンナは普段はジュリアと呼ばれております」

「はじめまして。アンナ様、チェチーリア・ラウラ・ビアンキです」


 チェチーリア皇女は黒髪に赤紫色の瞳、茶褐色の肌を持っているが、母に似た笑顔でとてもうれしそうな表情を見たりしている。


「……ジュリアンナ・オリヴィア・ビアンキです」


 ジュリアンナ皇女は双子の姉チェチーリア皇女とは正反対にアッシュグレイの髪に赤紫色の瞳、色白な肌だ。


「その隣にいるのはローザベッラ、ローザと呼んでいます。この子はイザベラ様が母君ですが、チェチーリアたちとは半年違いですが八歳になります」

「ローザベッラ・シルヴィア・ビアンキです」


 ローザベッラ皇女は茶髪に母に似たはしばみ色の瞳、小麦色の肌を持つ彼女は天真爛漫な笑顔で会釈した。


「お母様たち庭園に出てもいいですか?」

「いいわよ」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 そうすると、三人の皇女たちは中庭へと飛び出して行った。


「僕以外には唯一の異母弟おとうとであるセバスティアーノです。二歳なので、言葉はまだはっきりとは話せません。フェリシアナ様が母君です」


 あの豪華客船『Sole e Luna』で見かけたセバスティアーノで、あまりこの状況に全く理解ができないみたいだった。


 母と同じ赤毛に緑色の瞳をした彼は不思議そうに異母兄あにのことを見つめていた。


「最後に年末に生まれたばかりのユリアです。レオノーラ様が母君です」


 母の腕の中で健やかな寝息を立てているのがユリア皇女、生後二か月だが美しい銀髪を持つ子であることがわかる。


 そして、側妃の子どもたちがそれぞれ部屋に戻った後、客人用の部屋で話すことにしているのだった。

 そのときにアレクサンダーはルイーズの肩に手を置き、苦しそうに顔をゆがめて顔を伏せらせる。


「アレックス様、どうされましたか?」

「……ごめんなさい。少し疲れてしまったかもしれませんわ。申し訳ございませんが、お部屋で休息を取らせていただきます」


 異国の地に来てから側妃とその子どもたちに接して、緊張の糸が解けてしまったような感じだ。


「もちろんですわ! 長旅だったでしょう、お休みになられてください」

「ありがとうございます。それとアレックスとお呼びください。アンナ様と同様に堅苦しいのは好みではありませんので。それでは」


 そう言い残すと、ルイーズと共に歩いて部屋へと向かうことにしたのだ。

 アレクサンダーは少し息苦しいのか首元をさすっているのが見えた。


「大丈夫ですか?」

「いいのよ。寒さに慣れていないみたいね

「筆談と言うこともできますよ? 翌朝、声が出ないという事であれば

「そうしようかしら」


 そう言いながらアレクサンダーとルイーズは部屋に入り、ドアに鍵を閉めて息をつく。


 部屋のなかで一つは王女の寝室と居室、もう一つは同性の護衛騎士専用の部屋が設けられている。


 これはおそらく長い期間暮らせるように快適に過ごせることがわかる。

 かなりの好待遇にアレクサンダーは頭を抱えながら長椅子に腰かけた。


「今回は厄介だな」


 ため息をつきながら着ていたドレスを脱ぎ、パンツスタイルの状態が露わになる。


 厚手に見える薄い布地で作られたドレスは下に男性用の衣服を着用できるようになっているのだった。


 本来の声の低さに変えたアレクサンダーは小さな声で話した。

 ルイーズも同じように声を低くしてから話を続けることにしたのだった。


「ええ。それにしても、みなさん優しい方々でしたね」

「ああ。みな、半ば強制的に嫁がされているからな。レオノーラ妃も子どもがいた」


 それを聞いてルイーズも顔をしかめてレオノーラ妃のことを思い出したのだった。


 彼女はまだ二十歳であり、嫁いだのは一年半前になることも知っている。


 成人になればおそらく皇帝の寝所に赴き、皇帝との間に子を持つことになるであろう。


「アレックス様は大丈夫です。まだ未成年ですから」

「そう言うならばお前も、帝国じゃ未成年だから気をつけろ」

「はい」


 そんなことを言いながらも、互いに不安なことが山積みとなっている。

 その日、帝国内外には側妃候補として帝国に来たことは触れておらず、主に魔法に関しての技術についてを学びにやってきたことを知られている。


 表向きの名目はおそらく感じたのだが、本当の皇帝の目的は違うことを知っているのは宮殿内のほんの一部しかいない。


 アレクサンドラ王女は側妃教育などを行いつつ、魔法についても学ぶことになっている。


 しかし、側妃教育に関しては語学と帝国内での礼儀作法のみになっているため、主に魔法について学ぶことを中心となっている。


 十八歳の誕生日を迎えるまで宮殿内を出歩いても構わないという許可が下りている。

 そのために宮殿内であれば情報を集めることが可能になり、図書館に現存している魔法書を読むこともできる。


「それでは先に休もうか。俺も、ルイーズも休め。とにかく明日からは大変だぞ」

「はい」


 その前に精神的な疲労を癒すために早めの就寝をすることにした。

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