宮殿

第26話 五人の側妃たち

 ローマン帝国帝都アクシオの中央区に皇帝とその家族が住まう宮殿がある。


 中央には東側には皇帝の執務室と政治を行う場があり、西側は主に皇族が暮らしている居住区となっているのだ。

 そのなかで奥宮には皇帝の側妃とその子どもたち――主に七歳未満の皇子と未婚の皇女たちが暮らしているのだった。


 その奥宮から少し西側にあるのがイリヤ皇太子が暮らす宮殿があるのだった。


 皇帝は最も東側の塔に暮らしており、そこへ足を踏み入れることは数少ない者しかいない。



 その宮殿に二つの馬車が横付けされ、一台目の馬車から一人の騎士と皇女が降りた。


 癖のある銀髪に皇族としては稀有な青紫色の瞳を持つ少女、そしてその顔立ちは行方不明と言われてるキアラ皇后に瓜二つであった。


 彼女の名前はアンナ・ベアトリーチェ・ヴィオラ・ビアンキ。


 正当な後継者の証である宝飾品アクセサリーたちと共にこの宮殿へと戻ってきたのだった。


 その護衛を務めるのは帝室護衛騎士団に在籍していた騎士が着ることが許されている制服に着ているのが見えたのだった。

 彼は銀髪と紫色の瞳を持ち、フェラーリ公爵の縁戚であるマコーレー侯爵次男だ。


 二代目の馬車から降りてきたのは異国の王家の紋章が描かれており、国民たちは誰かというのはわかったのだ。


 皇帝の側妃候補として報じられていた大陸東側にある魔法大国エリン王国の王女だったのだ。

 名前はアレクサンドラ・エレン・アーリントン第二王女。


 まっすぐとした黒髪に鋭い眼光の紺碧の瞳は誰もがおののいてしまう。

 しかし、彼女の容姿は美しい女性になることが約束されているものだ。


 アレクサンドラ王女は背が高いが、首元を隠しているドレスのデザインは彼女のために作られたものだったのだ。


 その隣には美しい容姿をしている騎士であり、アレクサンドラより年下なものの騎士としては優秀だと言われている。

 波打つ金髪を襟足を残した短髪、主人に似たのか大きな瞳が鋭い光を宿しているのだ。


「アレックス様、手を」

「ありがとう。ノエル」

「はい」


 そのときに二人の客人を男女が出迎えていたのが見えたのだった。


 彼は茶褐色の肌を持ち、琥珀色の瞳をした壮年の男性がこちらを見つめていた。


「お二方、遠路はるばるよくぞいらっしゃいました。私はマッテオ・ロンバルディと申します。隣におりますのは奥宮の最高責任者である侍女長でございます」


 そしてロンバルディ侍従長の隣にいた恰幅の良い女性がカーテシーを行うのが見えた。

 黒いワンピースに白いエプロンをし、銀髪の女性がこちらを見て微笑んでいた。


「お初にお目にかかります。侍女長のユリア・モレッティと申します。お二方をこれより奥宮へと案内させていただきます」


 そして、アンナとアレクサンドラと二人を護衛する騎士たちは奥宮へと案内させられる。


 宮殿のなかでも皇族専用の通路が入ると、豪奢な絨毯を踏みながら歩いていく。

 靴音があまり響かない構造になっており、アレクサンドラ王女は隣にいる騎士に問いかけた。


「はい。アレックス様」

「安心しなさい。奥宮に着けば、他の側妃と話せる」

「心得ております」


 その間にも奥宮に到着すると、ドアを侍女たちが開いて現在の主たちと対面した。


 白金髪プラチナブロンド青玉サファイアを思わせるような青い瞳を持つ女性だ。


 そのなかで年上と思われる女性がこちらを見て恭しく礼をしてアンナの方を見つめていた。


 彼女はロジェ公国の公女であるソフィア・ルイエーエヴァ第一側妃だったのは間違いではなかった。


「アンナ皇女殿下、おかえりなさいませ。私はソフィア・ルイエーエヴァと申します」

「お話は聞いております。この宮殿の中で側妃の方々が過ごしやすく和むように心を砕いていたということを」

「ありがとうございます。殿下」

「殿下というのは堅苦しいのでアンナとお呼びください」

「それではアンナ様と」

「はい。盗聴と魔法干渉を防止するために結界を作りますよ」


 奥宮の部屋に入ってドアを閉めると、ソフィア妃が盗聴防止の結界を張るとアレクサンドラにも礼をしてから自己紹介を行う。

 アレクサンダーはアレクサンドラ王女としての自己紹介をした。


「私はアレクサンドラ・エレン・アーリントンと申します。エリン王国の王女です」

「ルイーズ・クララ・ジュネットと申します」 


 ただ騎士――ルイーズはあえて本名で側妃たちに話したのだ。

 それを聞いた側妃の一人は彼女を見て泣いて彼女を見つめていた。


「ルイーズ、元気にしていたのね。あれから音沙汰すらなかったもの、亡くなっていたのかと」

「そんなことはありません。レオノーラ様、わたしはアレックス様の護衛騎士として」

「そうだったのですね。ルイーズ殿下」

「はい。あくまで仮の名はノエルです。結界を張らない場合はノエルとお呼びください」

「わかったわ」


 彼女たちは遠縁の親戚でもあるため、姉妹のような絆があるのが垣間見えた。

 そして、他の側妃たちの自己紹介を行うことになった。


 カミラ・ユリア・イネス第二側妃はメリュー王国第二王女で二十九歳。

 黒髪に焦げ茶色の瞳に茶褐色の肌を持ち、太陽のよく当たる土地の国の王女だと感じる。


 イザベラ・ハスミン・フェーヴ第三側妃はフェーヴ王国第一王女で二十五歳。

 黒髪にハシバミ色の瞳に小麦色の肌をした彼女はカミラ妃と似た顔立ちをしている。


 イザベラ妃とカミラ妃は再従姉妹はとこ同士で、姉妹のように仲の良さそうだ。


 フェリシアナ・マヌエら・ルージュ第四側妃はフゥーベ公国の公女で二十三歳。

 赤毛に緑色の瞳、そばかすを持つ女性で顔色が優れないと言って部屋に戻っていった。


 レオノーラ・サラ・ブラン第五側妃はリュミエール公国公女で二十歳。

 茶髪に涙で潤んでいるのは琥珀色の瞳、彼女は幼い我が子を抱いているのが見えた。


「それでは子どもたちを呼びましょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る