屋上デッキでの再会

第20話 暗殺者リッキー

 それから海上での生活は二週間が平穏に過ぎていき、残りの一週間になろうとしていた。


 その間にも魔法と剣術の上達をしていたが、商業フロアでときどき買い足す日用品を探すようなことがあった。


 その間にアンナの父方の祖母であるベアトリーチェ皇太后との面会が叶いそうだと話していたのだ。


 しかし、平穏は突然の出来事によって引き裂かれた。


 きっかけは四人で武術場で剣術の鍛錬と、魔法の練習を行ったりしていたのだ。

 ルイーズ自身も剣術の他に魔法の扱いにも慣れてきて、乗船前に比べると少し上達しているように感じていた。


「それじゃあ、アンナ。一緒に手合わせをお願いできるかな」

「はい。ルイーズ様」


 アレクサンダーは先ほどアンナにかなりの大差をつけられて敗れているので休憩に入っている。


「アレックス殿下」

「クラレンス卿、殿下はやめてほしいと言っただろ」

「失礼しました。アレックス様、アンナとルイーズ殿下の手合わせ、どう思いますか?」


 戦いは双方共に互角、同じ戦法を取らないアンナについていける。


「アンナは誰に教わったのかが知りたいが、俺に似た人物だっていう事しか覚えていない」

「何歳のときだろうか」

「おそらく、五歳から六歳になる前にだろうと思います。おそらくそこでしばらくいたので」

「そうなのか。おそらくそう言うことか」


 アレクサンダーたちはエントランスの方へと向かおうとしたときだった。

 廊下のデッキから何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えたのだった。


 そこには黒ずくめの服を着た男たちが飛翔魔法でこちらへ飛び込んでくるのが見えた。

 そのときに何かの魔法が発動されて、こちらに向かってくるのが見えた。


「アレックス様!」


 思わず立ち止まった瞬間にアレクサンダーたちを覆うようにアンナが防御魔法をかけた。


 その瞬間の爆音と爆風が船に当たり、手すりはすでに崩落寸前の場所がちらほらと見えている。


 アレクサンダーとルイーズをめがけて飛び込んできた暗殺者アサシンたちは、ナイフや剣などを振りかざそうとしていた。


 それと交わしてルイーズの手を引きながら走り出すと、屋上の方へと向かおうと飛翔魔法を共に発動させることにした。


「ルイーズ。飛ぶぞ、飛翔魔法の詠唱を」

「え、どうすれば」

「良いから、屋上まで上がる時間がない」


 それから飛翔魔法をかけてから風に乗せて屋上デッキの方へと向かうことにしたのだった。


 その瞬間にアンナが相手から何を奪ったのかというと小型だが刃渡りの大きいナイフだったのだ。

 急所を的確に狙い、海の方へと倒れるような重心のかけ方をしている。


「誰か、警邏けいらを呼べ! 暗殺者がこっちに襲撃してきたぞ!」


 その声が聞こえてからアンナは外階段を駆け上がり、二人のいる屋上へと向かっているのが見えた。


 そして、屋上にアレクサンダーとルイーズは先に屋上で一人の暗殺者と対峙していた。

 背はアレクサンダーよりも背が高く、フードを被り、マスクをしているがその瞳は紫色をしていたのだった。


「行くぞ。ルイーズ、アンナ」

「ああ。わかった」


 そのままルイーズは剣を交えようとしたがいきなり突風を巻き起こす魔法で彼女は吹き飛ばされてしまった。


 立て膝になりながら止まると、一度魔法ではないと難しいと悟ってしまった。

 アレクサンダーとアンナの魔法攻撃でもすぐにかわされてしまうのを知ってしまったのだ。


(わたしはここでは難しい)

「アレックス様」

「わかった。とにかく彼を仕留めないと意味がない」


 そのときに暗殺者が十人くらいやってきて、もはや形成は逆転しているようなものだ。

 彼に駆けた言葉とその声を聞いて、アンナの瞳を輝きが変化していた。


「リッキーすぐに殺れ」

「わかっている。言われなくとも――」


 そのままリッキーと呼ばれた彼はすぐにアレクサンダーを狙い、ナイフで刺そうとしているのがわかったのだ。


 アンナが男に蹴りを入れたときにフードと彼の顔が見えた瞬間、すぐに彼の本当の姿を現したのだった。


 フードのなかから露わになったのはアンナやグレイヴ伯爵と同じ銀髪、その瞳はグレイヴ伯爵に似た色をしているようだった。


 アンナは青紫水晶ブルーアメジストの瞳は大きく見開き、彼の方を向いてこう話したのだった。


「――師匠……?」


 その言葉を聞いてからリッキーはとても驚いているような姿をしているのが見えた。

 幼い頃に武術を教わった師匠なのかもしれないと考えたのだった。


 それから同じような姿をしていたが、楽しそうなことをしているかもしれない。


「お三方! 警邏が呼べます……」


 そのときだった。

 グレイヴ伯爵は一気に思い出したように暗殺者の方へと走り出し、剣をサーベルから引き抜いて話した。


「リックなのか……、お前は」


 それをエリン語で話した瞬間、リッキーの表情は驚いたような感情を浮かべていた。


 彼はぱったりと攻撃をせずにグレイヴ伯爵をずっと見つめていたのだった。

 それを見て仲間たちはびくともしない彼に語気を強めて叫んでいる。


「リッキーどうしたんだよ⁉」

「早く行け。殺せ!」


 リッキーは突然、仲間に向けて攻撃を始めたのだった。

 彼は首につけていた死んだときに灰と化す仕組みがされていたチョーカーを外し、魔法を解除するように魔法具を灰に燃やしてしまった。


「俺はリッキーじゃない。リチャードだ」


 そして、彼はアンナとルイーズ、グレイヴ伯爵とアレクサンダーの五人は倒してしまったんだ。


 そのまま暗殺者たちの体が灰になった瞬間を見てから、リックの体がぐらっと揺れ倒れてしまったのだった。


「リック‼」


 倒れた瞬間に彼にまだ傀儡魔法が仕掛けられているのを知り、簡単なものだったのでアレクサンダーが解除をした。



 左隣の部屋を借り、アレクサンダーは三つ目のベッドの上に寝かされた彼を見つめていた。


「クラレンス卿、彼は暗殺者じゃないのか?」

「ええ、どうやら身分を偽って暮らしていたらしい。俺の弟です。三十年前に行方不明になった年の離れた弟だ。すぐにエリン王国に話をする」

「しかし、俺は信じられない。なぜ弟だとわかる?」


 長い間離れた兄弟で面影もない相手がわかるのかということだった。

 伯爵は自分と彼が結っている髪飾りだったのだ。


「これが父から私と弟に贈られたリボンです。おそらくこれを覚えていたみたいです」


 子どもの頃を懐かしんでいるような表情をしていた伯爵を見て、アレクサンダーは警戒はしないことを決めた。


「まあ、俺は信用する。彼が有能な武人であることを」

「そうですね」


 そうして、二人は過ごしている部屋に戻った。

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