第18話 魔物

 朝食を取ってからルイーズとアンナと共に武術場へと足を運ぶことにしたのだ。

 全員同じような武術用の服に着替えてから剣術と魔法の上達についても行おうとしていた。


「アレックス様。とにかく楽しく行いましょう」

「ああ、そうだな」

「アンナも魔法については上達をした方が良いよ。護身用として覚えておいた方が良いものを、それぞれ教えることにしているからね」


 アンナはうなずいているが、本人はあまり魔法に関しては頭の隅に教わっていた詠唱を試したいと思っているらしい。


 幼い頃に覚えていたが、武術場で発動したのがかなり危険性のある攻撃魔法だったのだ。


 それは爆発系、物理系の攻撃魔法に特化したもの、一つ一つは簡単な魔法なのだが組み合わせ次第ではかなりの攻撃性を持つ。

 場合によっては命に関わることになるので魔力の調整とかを行わないといけない。


「アンナ、ここに攻撃の魔法をお願いできる?」

「はい。わかりました」


 図書室でメモしてきた魔法書の色んな攻撃魔法を一つずつアンナが行うことにしたのだ。


 ほとんどが初心者が最初に教わる護身用の種類に入るようなものだが、アンナにとってはかなりたやすいものであっという間に成功させていく。

 彼女の魔法の才能はかなり優秀で魔法導師でも上位レベルの素質があるのかもしれない。


(アンナってすごいな。すぐに覚えていくじゃないか)


 それからルイーズは楽しそうな表情をしているので次は彼女の得意な剣術を始めようとしていた。

 剣術の練習用の剣を片手に練習を始めることにしたのだ。


 ルイーズが最初に足を踏み込み、アンナのもとへ飛び込んでいく。

 剣を振りかざしてきたときに彼女はすぐに自らの剣を交わして衝撃を受け止め、次にアンナが引き寄せて押してバランスを崩す。


 そこから相手の体勢が崩れてきたときに彼女へ剣を思い切り首元へと振りかざそうとしている。


「負けた……マジで大変だわ」


 それからすぐに楽しそうな笑みを浮かべている姿を見ていた。


『ご乗船の皆様、間もなく天候も穏やかになり、屋上デッキは午前十時より解放されます』


 船内アナウンスが聞こえ、アレクサンダーも剣を交えようとしたときだった。


 吹き抜けのある方角から悲鳴と何かの動物のような咆哮が響いているのが感じていた。


 アレックスが駆けだしたのを見てルイーズとアンナは一緒に駆けだして吹き抜けの商業フロアへと走り抜けたのだ。


「アレックス様!」

「ああ、階段で行ってくれ」

「わかりました」


 アンナとルイーズは階段で降りようとして、すぐにアレクサンダーが急いで走っている。



 一階ロビーにいたのは貴族令嬢らしい身なりの少女が魔物と思しき姿の生物に取り込まれそうになっていた。


「オリヴィア‼」

「いやああああっ! 来ないでぇぇぇぇ!」


 そのときに誰も魔法での攻撃を行うことをしても、できていないような姿が見えた。


 アレクサンダーがアンナとルイーズに合図をしてお互いに魔法を作ってもらうことにしたのだ。

 手首につけているブレスレットの目盛りを少し上げてから、すぐに魔法の詠唱を始めたのだった。


 彼が作ったのは少女の体と魔物と自分たち三人と吹き抜けを覆うように二重の結界を作り、そのなかで攻撃をすることにしたのだ。


「行きます!」


 そのときにアンナが幼い頃に教わっていた攻撃性の高い魔法を組み立て始めたのだ。


 彼女の魔力が流れてきたときに神聖な清浄な空気を孕む魔法に、魔物が苦しさに悶えているような姿を見せていた。


「アンナ、そのまま魔力を上げてくれ!」

「はい。――


 小さな声でローマン語で語った瞬間に魔法が一気に魔物へと攻撃始めていたのだった。

 火花が散るように魔物を包み、ダメージを負っているはずだと希望的観測を持っていた。


 しかし、魔物は少女を食べようとしているのが見えた。

 ルイーズには魔法を剣に付与し、すぐに攻撃を始めたのだが効いているようには見えない。


 アレクサンダーたちは次々と攻撃を行っていったが、魔物を突然咆哮と共に攻撃を行おうとしていたのだった。


「危ないですよ。結界に限界が」

「ああ、俺が結界を作り直したら、たぶん……

「そうですが」


 彼自身の新しい結界を作り直したら、同時に魔物が動いたらという危機感を持っていた。


(わたしが覚えていれば)


 そんなことをアンナが考えていたときだった。

 突然五階から誰かがこちらへ飛び降りてきたのを目撃したのだった。


 袖の大きな上着にスカートのように広がっているが、ズボンのような服を身に包んでいる女性だったのだ。


 彼女が詠唱をしていたのは魔法の一つで浄化系魔法の性質を帯びた瞬間、彼女は腰に固定していた細長い剣を抜いて魔物へ直接突き刺したのだった。


 そのときに結界のなかには薄いピンク色の小さな花びらが魔物と少女、女性と包み込み、一気に光と共に消えた。

 その花びらが幻のようで先ほどの女性が少女が無事母親のもとへと向かった。


「母様ぁぁぁ!」

「オリヴィア、ありがとうございました。皆様、どうお礼をしたらいいのか」

「良いのです。お嬢様が無事でよかったです」

「ありがとうございました」


 そのときにアレクサンダーに女性が声をかけてきたのだ。

 流ちょうなローマン語でこちらに話しかけてきたのに、アンナやルイーズも驚いていた。


「あなた方の戦いを見てました。とてもすごかったですね」


 サユリは腰あたりまである長い黒髪を一つに結い、アズマ独自のキモノに男性用に似せたハカマと呼ばれる衣類を身に着けている。

 その顔立ちは幼く見え、自分とほぼ同じくらいだろうと考えていた。


「あの……かなりお若いですね」

「いいえ、わたしは二十一歳ですよ。皆さんより年上です」


 それを聞いて三人は衝撃のあまり固まってしまった。


(二十一って、うちらより四歳も上⁉)

(幼い……のって、アズマ人は幼く見えるって聞いたけど)


「三人とも大丈夫でしたか⁉」


 そして、騒ぎを聞きつけたグレイヴ伯爵がこちらへと駆けつけ、伯爵とアレクサンダーが過ごしている部屋へ四人を案内した。

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