第14話 新たな情報
それを聞いた四人は少し固まってしまったのだ。
衝撃のあまり言葉が出てこないのが正直なところではあるが、仕方がないと思っている。
「これは一体?」
「思い出しました。フェリシアナ妃殿下はお子様と故郷に戻られていたのです。父君の喪に服すためにだったと思いますよ。喪に服す期間は
グレイヴ伯爵がそう説明をしてからはアンナとルイーズは不安そうな表情をしている。
しかし、アレクサンダーは冷静に最善の選択をすることをゆだねられているような気がしていた。
「殿下、どうされますか?」
「――おそらく、側妃の方々も同じように被害者かもしれない。加害性はないと考える」
「それを考えると、わたしは安心だと思います。おそらく、皇族が乗る船は安全面でしっかりしていないと」
「ええ、そうですね。命が狙われる場合は転移魔法で移動しましょう」
「それならば、俺が経営している帝国の宿に移れるようにする。手筈を整えておく」
「ありがとう。トマ」
不安な場所を取り除くことができるかはわからないが、それぞれの部屋割りと髪色を変えたりすることをするようだった。
ちなみにアレクサンダーとルイーズは髪の色を合わせて
「アンナ、無理はしないでいい。とにかくジュネット王国で預かっていた娘という立場でいてくれ」
「はい」
それからジャンがこちらを見ながら話しかけてきたのだ。
「兄ちゃんたちはさ、これから帝国に行くの?」
それを聞いてアレクサンダーはうなずいた。
「そうだ。危険かもしれないが、俺たちはここを護るために行くんだ」
「ひどいこと、してるなら、懲らしめてきて! 俺の仲間と家族、殺した」
ジャンは泣きながらアレクサンダーの服を掴んで、少しつたない言葉でそれを伝えている。
トマが泣きじゃくっている幼い彼を優しく抱きしめて、ここで住み込みとして働くようになったことを説明してくれた。
「ジャンはもともとフェーヴ王国の獣人の猫族が暮らす地域の子だったんだ。この子の家族と地域の仲間が帝国に殺されたんだ」
獣人への迫害はローマン帝国では常に行われているためか、獣人たちは帝国の影響の少ない離島へと移り住む傾向が多いという。
十五年ほど前からいきなり皇帝が獣人たちへの迫害を行うようになっていったという。
それまで温厚で獣人たちへの保護を他国と協力して行っていたようだったのだ。
しかし、他国は獣人たちを保護する傾向にあり、彼らは人間と同等に職に就いて生活するということを行っている。
アレクサンダーとルイーズ、アンナも身近に獣人の血を引く者がいたため、差別や偏見を抱くことが無かったのだ。
「それで、難民としてシュヴァルツァー港までひとりで来て、俺が安心できる人だと知ったんだ。親として育てながら、宿の方も手伝っていて……十一歳ながらにも頑張っているよ」
その間にもジャンは泣きながら一緒に話しているのが見えたりしているようだった。
それを聞いてアレクサンダーはジャンの目線に合わせて話しかけていた。
「ジャン、君のご家族、仲間たちのことを聞いた。俺らはこれ以上、悲しむ人を作りたくない。だから、帝国に行く」
「ほんと……」
「うん、アレクサンダー・ノエル・アーリントンが約束する」
それを聞いてジャンは自分がつけているアクセサリーを取り出したのだ。
それは先の鋭い魔石がペンダントトップになっていて、チェーンには細かい
「あなたを、信じます。これは、俺の一族の首飾り。信じる者に、与えよって父ちゃんが」
それを手にすると魔石が光り始めていたのに気がついて、ジャンは笑みを浮かべながらアレクサンダーの方を向いていた。
「魔石が主を、認めてる! 俺、なかった」
「それじゃあ、信じる心を認めたんだ」
認めたことをルイーズが話すと、ジャンは首が心配になる程度にうなずいている。
こんな彼を見るのは初めてだったのでトマ自身も驚いているように見えた。
「ありがとう。ジャン、これから帝国に行って、返しに来るよ」
「はい」
アレクサンダーはそれを首につけてから、一度シャツの下に置く。
鋭いと思っていたが程よく研磨されているのでチクチクすることはないようだった。
定期船へと乗るために馬と荷物を先に乗せてから、アレクサンダーたちは船に乗る手続きを終わらせた。
「それでは、またのご利用お待ちしております」
「うん。そのときは連絡するよ」
トマと銀髪の男性が互いに軽く抱き合って、それから三人には握手をしているのが遠くから見えた。
それから馬車に共に乗って港まで行くことになり、トマのそばに座って窓の外を見つめていた。
定期船が停泊しているシュヴァルツァー港には見送りに来ている者がいたのだった。
手を引かれてジャンは大きな白亜の船を見つめて、琥珀色を輝かせているように見えた。
隣には小柄だが、自分から見るととても大きなトマが立っている。
彼に宿に宿泊していた人たちをお見送りに行こうと言われたからだった。
するとデッキの最上階から二番目の部屋からあの四人が出てきて、手を振っているのが見えたんだ。
「あ、トマさん。あそこ、さっきの」
「そうだなぁ。手を振ってみ」
手を振り返すと、お互いに笑顔で見つめ合っていた。
すると低い音で汽笛が鳴り、錨が上げられてから船が徐々に動き出していった。
ジャンは急いで走り出して再び手を振り返したりする。
「行ってらっしゃい」
そう言いながら彼は港の端までたどり着いていた。
それからトマのもとに戻ってくると彼をぎゅっと抱きしめていたのだった。
「ジャン。成長したなぁ」
彼の頭を撫でまわしてから、トマはしゃがんでいるときにこちらを見た。
「君を養子に迎えたいと考えている」
「ようし?」
「家族になることだよ。血のつながりはないけれど、一緒に家族として暮らせるんだ」
それを聞いてジャンは大きな声を出して泣き出してしまった。
彼は不安だったに違いないが、その不安要素を消していきたい。
「トマさん。お父さんって呼んでもいいの?」
「うん、いいよ」
「お父さんみたいになる。魔法使いになりたい」
「そっかぁ。それは……できるかもしれないな」
ジャンの魔力はおそらく魔法使いになれる程度の大きさを持っているに違いない。
彼らが家族になり、ジャンが魔法導師として国を支えることになるのはまだ先のことだ。
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