第13話 つかの間の休息
アレクサンダーが目を覚ましたのは窓の外が暗くなっている時間帯で、いい匂いに誘われて目が覚めたに近いかもしれない。
階下では夕飯時のにぎやかな声や音楽がこちらにも聞こえてきて、そのままベッドから起き上がって時刻を確かめる。
懐中時計が示していたのは午後六時半、そろそろ夕飯でもおかしくはないと思う。
「夕飯、食べないとな」
思わず腹の音が聞こえてきて机のところにあるメモ書きを見つけた。
それには流麗な字で何かが書かれてあるのが見えて、すぐに誰の字かもわかっていた。
『夕飯は一階の食堂にあります』
「食堂か、一度行ってくるか」
丁寧に書いてある字はグレイヴ伯爵のものですぐに一階の食堂へ向かうことにした。
着ているのはフリルシャツに黒いズボンという貴族の子息のような姿になっているが、彼はその上にジャケットを羽織るとすぐにそちらへ向かうことにした。
階段を下りていくと、アレクサンダーはルイーズとアンナ、グレイヴ伯爵のいる席に向かうことにした。
瞳の色をダークブラウンにして外に出たことで誰にも怪しまれずにここへやってくることができた。
食堂は宿とは別で経営しているようだが、宿泊客の他にも近所から夕飯を食べに来ているようだ。身なりや容姿も様々でなかには獣人の青年が客としてこちらに来ていたりすることがある。
アレクサンダーはルイーズの隣に席をついてメニュー表を見せてもらうことにした。
「あ、アレックス様、ご飯をこれからですか?」
「うん。ルイーズも、食べていなかったのか?」
「さっき席についたばかりで、アレックス様も食べましょう」
それからメニュー表を見ながらみんなが待つことにしていたのだ。
アレクサンダーが見たのはジュネット王国の家庭料理でも出ているグラタンのようなもの。
「アレックス様は?」
「あ、俺はこれにするよ」
ルイーズもそれを同じものを頼み、アンナとグレイヴ伯爵は日替わりの話をすることにしたんだ。
そのときに
「ご、ご注文はお決まり、ですか?」
「日替わりが二つ、家庭料理が二つ。あとは紅茶が四つで」
彼は少し緊張しているようだがそれを店員たちは優しく見守っているのが見えて、まだ店で働き始めて日が浅いようだった。
少年は淡い茶色に黒いメッシュが入った髪をして、琥珀色の瞳は間違えないように伝票に書いていく。
彼には耳飾りをつけているのが猫の耳になっているので、おそらく獣人の少年であることは違いないようだった。
「それでは、もう一度、確認します。家庭料理が二つ、日替わりが二つ。紅茶が四つですね」
「はい」
「それでは、お待ちください!」
それからすぐに全員で机を囲み、地図を開いて道のりを確認することになった。
ここから先は定期船『
「シュヴァルツァー港から船で向かいます」
「そうね」
それは当時皇太子だったルカ・アンドレア帝が成婚したときに記念して造船されたもので、時折皇族が乗船することのある一流の船でもあるということが知られている。
さらに人の他にも貨物や馬などを乗せて目的地へと向かい、貨物船のような役割を持っていたりするのだ。
一応何度か停泊を挟みつつではあるが、最速でも一か月ほどかかることになっている。
「一か月か。意外と短いな」
「これでも速くなった方です。いまは転移門も費用が高いので、こちらの方が安全です」
転移魔法で行先を設定してから瞬間的に移動することができるが、民間のそれを一度使うと高額になる場合もあるのだ。
「そうか。客席に関しては」
「二等船室が妥当かと。二人ずつしか入れないので、それを二部屋ですから」
「そうですね。三等だと、その、プライバシーもありますし」
それを聞いてうなずくと三人へ詳しい話をする。
「それで部屋割りは私とアレックス殿下、ルイーズ殿下とアンナとなります」
「わかりました」
わたしはそれを聞いてからはすごい話をしているのがわかるんだった。
それから定期船は三日後に船でこちらへやってくることになっているので、それに合わせての行動になるはずだ。
その前に腹ごしらえをしておくことにしたのだった。
家庭料理を頼んだアレクサンダーとルイーズはスープと共に数十分で食べ終えてしまった。
「それではわたしは帰ります」
「そうしましょう」
アレクサンダーは先に部屋に戻ると部屋に入るとシャワーを浴びて寝間着に着替えて寝る。
体が疲れていたのかすぐに眠ることができて、安心して深い眠りに入ることができたのだ。
強い魔力で守られていることに気がついたのは宿に入るときだったのだ。
意識が浮上したときには隣や階下、外の廊下がにぎやかに聞こえてきたからだった。
隣のベッドにはグレイヴ伯爵がおり、まだ寝息を立てているのがわかる。
そのままアレクサンダーはバスルームへと洗面所に行くと、水で顔を洗うと眠気であやふやだった意識もしっかりとしてきた。
そこからベッドルームからドスンと音が聞こえて、何事かと先程いた場所に戻ってみる。
「何があったんだ⁉ え……」
アレクサンダーは警戒しながら恐る恐るそちらに向かうことにした。
そこでは布団と共にベッドから落ちても寝るグレイヴ伯爵の姿がそこにあった。
どうやら寝返りを打とうとして、そのままベッドから落ちてしまったらしい。
普段結っている髪は下ろしているみたいで、銀色が太陽に照らされているのが見える。
「動じないのがすごいな」
そう感心していたときだった。
もぞもぞと彼が起き上がってボーッとしているように見えた。
「ん、殿下……あ、すみません。このような姿で」
思わず顔を赤くして謝罪してきたが、思わず笑ってしまいそうになってしまう。
アレクサンダーはその後にカーテンを開くと、まぶしそうに太陽を見つめる。
窓の向こう側には港が広がり、大小様々な船が出発したりしている。
「朝食を食べに行きましょうか。新鮮な食材がほとんどです」
「ああ、そうだな」
それを聞いてから服を着てから一度隣の部屋へ向かうことにした。
グレイヴ伯爵も着替えてから同じように隣の部屋の扉をノックする。
「はい」
「ルイーズ、アンナ。俺とクラレンス卿だ、朝食に行こう」
「はい」
二人ともすでに着替えは済ませているようで、すぐに一階へ朝食を取りに向かう。
今日の午後に豪華客船が停泊することになるため、荷物をまとめてルイーズとアンナに魔法具の装備をすることになったのだ。
「これは?」
「魔法を発動させる際に、これの目盛りを調整すれば……魔力も倍になる。これらで体力と魔力の消費を抑えることができる。抑えなくてもいいときは目盛りを等倍で良い」
「これは私トマ・ルゼが開発したものでございます」
「ありがとうございます。早速、つけてみます」
「トマさーん!」
「ん、ジャン。どうしたんだ?」
ジャンと呼ばれた猫耳が生えている少年がこちらへ駆け出していた。
ノーカラーのワイシャツに、紺の長ズボンを履いてこちらへ走ってきていた。
「新聞、見た? これ」
ジャンが恐る恐る新聞のある見出しを指さしていた。
それにはアレクサンダーが驚きのあまり言葉を失っていた。
同じ船にローマン帝国の第四側妃のフェリシアナとその子どもたちが乗るとの情報だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます