ジュネット王国 魔法導師との出会い
第11話 新しい人物
冷え切った空気が耳と頬に当たり、痛いというのが感覚として伝わってくる。
手綱を持つ手も素手だとしもやけになるので手袋をしているが、どうしても握っていると汗が出て何度か涼ませている。
思わず誰もが襟元をいつもよりきつく締めて、外気を遮断したいと思ってしまうくらいだ。
道端には雪が積もっている箇所があり、ときおり冬の装いをしている旅人が歩いているのが見える。
そのなかには手を引かれた幼い子どもの姿があって、家族で揃ってどこかへ向かっているように見えた。
ジュネット王国の王都テレーズからの街道は隣国のシュヴァルツァー港へと繋がる。
貿易港でもあるシュヴァルツァー港はフェーヴ王国の紛争地帯からも離れているよう。
最初にグレイヴ伯爵が前に立ち、シュヴァルツァー港へと馬の歩みを進めている。
しかし、本来予定していた道の先は紛争地帯になっているので、そこを迂回する街道を使って動いていくことにした。
そのなかでルイーズは騎士の装いをしているが、そのなかで後ろにいる少女を見つめていた。
旅装の紺色のドレスに赤いコートを着て横乗りになって馬に乗り、帽子を目深に被っている貴族の令嬢と思しき少女がいた。
ルイーズは少しだけ警戒してしまう気持ちを隠していた。
(アンナがもし、皇帝との繋がりがあったら……たぶん命はない)
後ろにいるのはアンナ・ベアトリーチェ・ヴィオラ・ビアンキ皇女、正統な皇位継承者ということが明らかな人物であることが判明したからだ。
彼女は幼い頃に帝国から逃れてきたのだということも知ったのはそのときだった。
子どもの頃に正妃である母と共に親戚であるグレイヴ伯爵を頼ってエリン王国へと向かおうとしていた。
その矢先に母が病気に
そして、彼女はピアスにアンナの指輪に組み込まれている通信魔法を発動させる。
[ルイーズ様? どうしたんですか]
「ちょっとこの後、大丈夫かなって」
[心配いりません、遠乗りは慣れているので、それに万が一のときは武術は大丈夫なので]
「アンナの場合は戦闘特化したものじゃない? 少しだけ護身術が心配だけど」
[問題ないです]
「そう、なら良いんだけど」
[はい。でも、これから向かうのがフェーヴ王国になると余計気にしてしまうかも]
フェーヴ王国はすでに帝国の支配下に置かれている国の一つだ。
そう考えると命を狙われている二人はかなり危険な地域へと向かおうとしているのだ。
それからアンナとの通信を切ってから、グレイヴ伯爵が通信を繋げてきた。
[三人に連絡です。あと二時間ほどで知り合いが馬車で迎えに来ます]
「ありがとうございます。伯爵」
[クラレンス卿、ちなみに残り二時間はこの速さでか?]
[ええ、一応次の宿場町へ行きましょう]
「はい」
それを聞いて少しだけ気持ちが楽になるだろうと考えていたのだ。
昼間になると朝方よりも少し暖かくなったが、マントを取り外すことはできないくらいの気温だ。
四人は東屋に馬を休ませ、軽食を食べることにしたのだ。
もちろん馬たちにも軽食と水分補給させたのだった。
それからアレクサンダーも同じように軽食と水分補給をしたりしているのが見えた。
その隣にルイーズは歩み寄り、丸太の上に腰かけていた彼は少し横にずれていた。
「座ったらどうだ?」
「アレックス様。ありがとうございます」
「どうした。ルイーズ」
「アンナのこと、どう思いますか」
アレクサンダーは少し顎に手を添えて考えているのが見えた。
「彼女は本当に知らないのであれば、俺の考えでは味方だと思う」
「なんでそう思うんですか?」
「傀儡系の魔法を感じなかったからだ」
それを聞くとルイーズも合点がいった。
傀儡系の魔法はかけられた者は自分の意思とは異なり、かけた者の言うとおりになるのだろうと考えていた。
その魔法はかなり危険で解除に失敗したらその者は心を壊し、最悪な場合によってはその場で死に至るというものもあるのだ。
それがアンナにかけられていないとするならば、懸念する問題はないと考える方が自然である。
「そうか。ありがとうございます。アレックス様」
「ルイーズも気が張っているようだから、力を抜かないと剣も素早く抜けないだろう?」
「はい」
会話をしているとグレイヴ伯爵とアンナがこちらへやってきた。
「二人とも、これからあと三十分です」
「よし、とりあえず馬を軽く走らせるか?」
「ええ」
そう言うと馬に乗ってすぐに歩きだしていくことにしたのだった。
アレクサンダーは馬の腹を軽く蹴り、軽く走らせて行くと思っている時間の三分の一で着くことになる。
所定の場所に到着してからはすぐに馬車は来ていないようだった。
「少し速かったですね」
「ああ、あのままでも良かったような……」
話すことを考えながら何かを聞き取り、防御魔法を結界の要領で張り巡らした。
そのときに魔法での攻撃があったのだということがはっきりとわかった。
魔法の発動に失敗した直後に現れたのは、黒いフードに口元を隠した姿だったのだった。
「帝国の
グレイヴ伯爵の声は上擦っていたが、すぐに彼は剣を抜いてすぐに応戦しようとしている。
そのときにアレクサンダーはその場にいる四人の体に防御と身体強化魔法をかけた。
魔法をかけられたときに体が不思議と軽くなっているようで、とてもきれいなことをしているのが考えているみたいだ。
アレクサンダーが行うのは物理攻撃と爆破攻撃が組み合わさったもので、範囲を絞れるので局所的な攻撃になる。
「ギャアアアアアッ‼」
暗殺者が叫びと共に炎と共に灰となって散っていくのが見えたりしている。
一方、ルイーズは炎の付与魔法をかけた剣でナイフを持っている暗殺者に対抗していた。
そのなかで暗殺者の背後から気配を消して後ろから蹴りを入れて、気絶させているアンナの姿も見えた。
彼女は冷静に戦っているのが見えるが、時折発動する魔法の難しいものだった。
爆破と物理、暗殺者の背丈ほどの結界を張っているのも見えたので、かなり優秀な魔法使いであることも感じた。
そのときに後ろから首を絞められそうになっていたのを見て、ルイーズは思わず叫んで氷の矢を放とうとしたときだった。
「アンナ‼」
気がついたアンナは彼の両腕を持ち、思い切って前に投げるように振り回したのだ。
「グハッ、ウゥゥ……」
そのあとに男は伸びてしまっているようで、若い女性が大柄な男をいとも簡単に倒してしまうことができたのだ。
ルイーズとアレクサンダーはそれらを見るひまはない。
次々と暗殺者たちからの攻撃をかわしながらそれぞれ攻撃をしたりする。
それからしばらくしてそれぞれの攻撃を止めた。
暗殺者が抵抗することが無くなったからだった。
そのうち命が尽きてしまった物はほぼ同時に灰となって散って行ってしまったのが見える。跡形も残さずに消すことで誰かが暗殺に関与したのかが不明になるのだ。
「これは……」
「ええ、間違いないですね。ラウールと言った少年の言う通りですね」
「ああ、間違いない」
お互いに汚れが目立つことが多いがルイーズはマントを羽織れば問題ない。
しかし、多少な返り血を浴びているアンナは隠しようがないと考えていたときだ。
ちょうど紺色の車体の馬車がこちらへやってきているのが見えた。
ルイーズはそれに警戒の色を見せて、サーベルから引き抜いた剣をすぐに構え直した。
そして、開いた扉から出てきた人物を見つめていた。
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