第10話 襲撃
一月の中旬の武術場には雪が積もった痕跡が残されている。
白い息を吐きながら自室から中庭を通り、アンナのいる部屋へと向かう。
この時期の王都はかなり冷えるので部屋には暖炉に火を入れて暖めることが大事になる。それは身分が違えど同じことだった。
「寒い……冷えるな」
ルイーズの部屋からちょうど対角線上にある空き部屋をアンナが滞在するときに使えるよう手配していたのだ。
「あ、ルイーズ様。おはようございます」
「おはよう。アンナ、今日は寒いね」
本名や本来の地位を知っても二人の間にある主従関係のようなものは抜けない。
その間にも明るく自分にふるまっているのは、もともとの性格なのではないかと考えていた。
それから武術用の衣服に身を包んで武術場に足を踏み入れた。
アンナとアレクサンダーはルイーズの剣術の師匠である護衛騎士のカミーユ・ナゼールによる剣術と護身術を教わっている。
「それではアンナ殿下も」
「はい」
そう言うとアンナは教えてもらったことをまねて護身術を身に付けていく。もともと覚えが良いのか吸収する能力が高いのだ。
そのなかで剣術もルイーズと共に手合わせを行うことにした。
「お願います。ルイーズ様」
「ええ。お願いします」
お互いにサーベルに手をかけてからナゼールの合図に合わせて手合わせが始まった。
ルイーズと彼女の剣が交わり、離れ、再び交わる音が聞こえて震えて剣が擦れる音が聞こえてからじりじりと剣を交わらせながらの駆け引きになりそうだ。
「ぐっ、ルイーズ様、強いですね」
アンナは少し慣れていない剣を持っているのでぎこちないような形だが、運動神経が良いようなので鍛錬を積めば同等になりそうだ。
一度突き放すように前に押し出して、アンナの持っている剣を弾いて首元に剣先を向けたのだ。
「アンナも慣れれば、いけるかも」
「はい。鍛錬はしていましたが、本格的なものは慣れていませんので」
「それではアンナ殿下とアレクサンダー殿下で」
「ああ、そうしましょう」
そのときにアレクサンダーもアンナとの手合わせをしていた。
二連戦だったアンナはアレクサンダーの隙を見て背後に回り勝負をつけたのだった。
「なんだよ~。俺も剣術はやって来たのだが」
「ジュネット式は実践優先なので」
「そうだな。そちらの方が良い」
それから水を飲み、もう一度対戦しようかとしたときだった。
植木の方から物音が聞こえて来たのにルイーズたちは反応し、すぐに臨戦態勢に入ろうとしていた。
人影を認知した瞬間にルイーズはナゼールに指示を出した。
「ナゼール。すぐに応援を!」
「はい。殿下!」
ナゼールはすぐに応援要請を王宮の者に伝えて、後は時間の問題となっていた。
黒づくめで顔までは見ることができない。
植木に向かってローマン語で聞こえてきた言葉があって、それにアンナが反応してローマン語で応えていた。
「すぐに出てきなさい。相手しましょう」
そう言うと黒づくめの男たちが現れ、すぐにルイーズに襲い掛かってきたのだ。
(
それを見て思わずルイーズは剣に付与魔法をつけて衝撃を伴う攻撃もできるようにした。
剣を振りかざすと彼女の頭一つや二つ大きい体の男たちが吹き飛んでいくのが見えた。
「ルイーズ!」
「ルイーズ様」
「アレックス様、アンナ」
一度三人が背中合わせになり、合図をして飛び出したのだった。
「ざっと何人くらいでしょうか?」
「ああ、二十人よりは少ないですね」
「ええ」
「とりあえず話は聞きたいので、何人かは残そう」
「はい」
それは暗殺者とはいえなぜ襲い掛かってきたかの理由を聞きたいということで、複数名話そうとしたのだった。
臨戦態勢からすぐにルイーズは剣を交わらせ、すぐに剣で暗殺者に動けない程度の傷を与えることを優先することにした。
こちらは十代の少年少女ではあるが、一般市民より魔法や剣術に関しては長けている方だ。
向こうはすぐに倒せると思っているようで狙いを定めているようだった。
暗殺者たちが悲鳴を上げながら逃げ惑うなかでアレクサンダーは剣術ではなく黒魔法での攻撃で対応している。
物理系の魔法で壁などに叩きつけるなどの少し手荒い形ではあるが数が多いので、効果的な戦法を取っているのだ。
しかし、暗殺者たちが次々と現れるためルイーズは体力が減っていくことがわかる。
そのときに体勢が崩れてすぐに地面に手を着いたときに大きな刃がこちらへ降り注ごうとしていた。
目を閉じて自分の運命だと悟っていたときだった。
それと同時に暗殺者のうめき声と共に地面に倒れる音が聞こえた。
目を開けると大きな青い瞳はさらに大きく見開かれたのだった。
「アンナ……? え、うそ」
そこにはアンナが暗殺者の胸に剣術で使用している剣を突き刺していたのだった。
無言でルイーズは彼女の方を見ながら暗殺者に抵抗していくことができるようになった。
そして、狙いを定めたように地面に落ちている刃渡りの長いナイフを持ち、他の暗殺者にとびかかっていく。
一度近くまできてチャンスを狙い、すぐに相手の急所を狙うという至近距離での戦法になっている。
そのあとに後ろから回って首筋の血が通う場所を思い切り狙う。
次に隣にいた者を標的にしてすぐにみぞおちに蹴りを入れてから魔法でとどめを刺す。
それは飢えた獣のように貪欲に生きている者を食らいつくことができる。
そこからアンナの瞳に光は宿さず、理性などは全く感じられない。
機械仕掛けの人形のような表情で彼女は暗殺者を次々と倒していってしまったのだ。
彼女の周りには緋色の華が咲いて、彼女は返り血を浴びても全く動揺がないようだった。
「アンナ、大丈夫⁉」
「え、きゃあああああっ」
アンナは我に返ってから動揺してしまっているが、グレイヴ伯爵がすぐに泣き叫ぶ彼女を抱き寄せる。
そのときだった。
息絶えた暗殺者たちはすぐに黒い靄へ変化して消えてしまったのだった。
「いまのって……」
「どういうことだ。何らかの契約魔法だ。拘束した者に聞いてみようか」
アレクサンダーはアンナが拘束した暗殺者に聞くことにしたのだった。
他の暗殺者にしては年齢が若く、十代半ばの少年のように見える。
黒いフードを脱ぐと茶褐色の肌に黒い髪と瞳に、目鼻立ちがくっきりとした顔立ちはメリュー王国の国民に多く見られるものだ。
「君の名前は?」
「ラウール」
ラウールと答えた彼はうなずいて孤児である可能性が高いかもしれない。
下手すると戸籍上に存在が明記されていない場合があるのではないかと考え
「姓は知らないのか?」
「父ちゃん、母ちゃん。知らない」
片言のローマン語で話しているので恐らくメリュー出身の少年のようだった。
幼い彼はまだ子どものようで怯えたような表情をしているのが見えた。
る。
そのなかでルイーズは剣をさやにしまうと彼に問う。
「あなたは主にわたしとアンナ様を殺せと?」
それを聞くと彼は再びうなずいてすぐに首元につけてあるチョーカーを見せた。
「死んだら、灰になる。他のひと、同じようになった」
ラウールはそれを言うと再び彼は姿を消して行ってしまったのだ。
アンナとルイーズ、アレクサンダーとグレイヴ伯爵は身の危険を感じ、予定していた日の朝に王都を離れることにしたのだ。
「母様、父様。行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて、ルー」
「はい。必ず、生きて戻ってきます」
母と抱きしめてからすぐに馬に乗ってフェーヴ王国のシュヴァルツァー港に行くことにしたのだ。
アンナはシャルロットからもらった令嬢のドレスを身に包み、魔法で髪を茶色に変化させているのが見える。
アレクサンダーは乗馬用の服装の上からフード付きのマントを羽織っている。
ルイーズは騎士の服にマント姿だ。
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