第8話 仕事
礼拝堂を出てからルイーズは王太子としての初めての仕事が外交面であった。
隣国の同年代の王女との外交というものが形式上では予定されているが、これは本来の目的はこれからの旅順についての打ち合わせだったのだ。
それには自分の両親も話し合いに参加するため、もう先に部屋に来ていることはわかっているのだ。
彼女はすぐに淡いブルーのドレスに着替え、すぐに王宮のなかで公的にも私的にも使われる部屋を指定した。
「殿下、間もなくアレクサンドラ王女殿下がいらっしゃいます。これから向かいましょう」
「わかりました」
王宮の謁見する私的な部屋には一人の女性の姿が見え、その隣には癖のある銀髪を結っている男性がいた。
正確に話すとそうではないのだが、形式上は王女同士の外交ということになる。
「アレクサンドラ王女殿下、よくお越しくださいました」
「ええ――」
そのあとにドアを閉めるとすぐにアレクサンドラ王女はすぐに魔法の詠唱をして、空気を切るような音が聞こえてきて結界が張られたのを確認する。
その光景に少し驚いている両親の隣に座ると目の前にいるアレクサンドラ王女を見つめていた。
「お初にお目にかかります。アレクサンダー・ノエル・アーリントンと申します。事情があり、このような姿で公の場に出ていることをお許しください」
「そうでしたか。それはメアリ王妃陛下からお聞きしておりました」
そのことをルイーズの両親も知っていたらしいのですぐに本題に切り出すことにした。
五人での話はローマン帝国についてジュネット王国での帝国による支配はまだ薄い状態だと。
そして、自らが行方不明になっていたことは無事が確認されていることが明らかになり、おそらく何かしらの動きがあるかもしれないとのことだった。
情報はグレイヴ伯爵が帝国の関係者から聞いたとのことで正確な情報であることは間違いがないようだ。
「――それでは出発は?」
「五日後に行きます。フェーヴ王国にあるシュヴァルツァー港から帝国に向かう定期船があるので」
「しばらくは王宮でお過ごしください」
そして、アレクサンダーが結界を解こうとしたときに王妃がすぐに笑顔で言伝を伝える。
「それとルイーズ、ラフォンテーヌのシャルロットからぜひ剣術の手合わせをしたいと」
「はい。わかりました。母様」
それを伝えてから結界をアレクサンダーが解除すると、両親はすぐに部屋を出て仕事へと向かっていった。
先ほどの会話を聞いてから疑問を浮かべながらアレクサンダーはすぐに質問をした。
それを聞いてルイーズは笑顔でその人物について話すことにした。
「わたしの
「ルイーズ殿下の母君はラフォンテーヌ侯爵家のご令嬢だったのですね」
「ええ、子どもの頃から母の教えで剣術を、母方の
「そうでしたか」
「そうか。俺も一緒に行っても良いか? 剣術の腕が鈍っているかもしれないからな」
「はい。王宮図書館で調べ物をしても良いですか? 帝国について調べたいことがあるのです」
「わかった」
すぐにアレクサンダーと共に出かけたのは王宮図書館で帝国の皇族名鑑を見ることにした。
そこには一番最初のページには皇帝一家の肖像画が書かれてあり、その下には描かれている位置に名前が書かれている。
中央に座るのがルカ・アンドレア帝でその周りには五人の側妃が描かれているようだった。
一人目が第一側妃でロジェ公国の大公息女であるソフィア・ルイエーエヴァ、その息子であるイリヤ・ルカ・レオナルド・ビアンキ皇太子で十四歳になる。
二人目は第二側妃でメリュー王国の王女であるカミラ・ユリア・イネス、その娘がチェチーリア・ラウラ・ビアンキ第二皇女、ジュリアンナ・オリヴィア・ビアンキ第三皇女で双子の八歳だ。
三人目は第三側妃でフェーヴ王国の王女であるイザベラ・ハスミン・フェーヴ、その娘がローザベッラ・シルヴィア・ビアンキ第四皇女は八歳で双子のチェチーリア皇女とジュリアンナ皇女とは半年違いの妹となる。
四人目は第四側妃でフゥーベ公国の公女であるフェリシアナ・マヌエラ・ルージュ、子どもは二歳のセバスティアーノ・ルチアーノ・ビアンキ第二皇子だ。
五人目は第五側妃にリュミエール公国の公女であるレオノーラ・サラ・ブラン、彼女は生まれたばかりのユリア・サーラ・ビアンキ第五皇女。
「六人目にルイーズが、七人目にアレクサンドラか」
「そうなりますね。わたしが懇意にしているレオノーラ様まで嫁がれていたなんて」
ルイーズはそのなかで皇太子時代の皇帝の姿が描かれている名鑑を見つけた。
「行方不明となっている皇女が一名いらっしゃるみたいね。アンナ・ベアトリーチェ・ヴィオラ・ビアンキ第一皇女ね。『神聖歴一七八八年のクーデターにより正妃キアラ・ジュリア・フェラーリと共に行方不明』と書かれてある」
「そうだな。生きているならば俺と同い年の十七歳だな」
そこに描かれてるのは五歳ほどの皇女の姿が描かれている。
くせ毛なのか波打った銀髪に青紫水晶と同じ色の瞳をした幼い女の子はとても笑顔で両親と並んでいる。
「幸せそうに見えるのに……なんで、クーデター後にこのような性格に」
そのときに話を聞いていたグレイヴ伯爵がピンと来たような顔をしてこちらを見ている。
「別人になったみたいですね。帝国にも聞いてみましょう。私が聞いてみますので」
「あ、クラレンス卿、頼んだ」
「はい」
そう言って彼は図書館を後にして親戚との連絡を取ることになっているのと、ルイーズとアレクサンダーはそれぞれ情報源となるものを探していった。
「名鑑が残されていたことで謎が浮かび上がってきたな」
「はい。行方不明の第一皇女殿下と正妃陛下のことだね」
「そうだな。十三年前のクーデターか、記事とかには乗っては」
それをルイーズは王宮図書館の司書に聞いて十三年前の時事が収録されている書籍を出してもらい、詳しい情報を探ることができるようになっていたのだった。
「あ、これって」
「レオ・アントニオ皇子によるクーデターと書かれてあります……あ、当時皇太子であったルカ・アンドレア帝の双子の弟って」
「そうと書かれてあるね。あとは帝室に関する話」
「ここにはあまり所蔵されてはいないですね。遠い西の大国ですからね」
「そうか」
図書館の書籍を返却し、アレクサンダーは自室へと戻っていくのを見送った。
その後にルイーズは私室に入ってからは自分の必要とされる着替えなどを魔法具のナップザックにしまっていく。皇太子としての衣装は帝国にまとめて送ることになっているので、それらは帝国に側妃としての荷物に入れてある。
そのなかで一つの肖像画を部屋に置いて行こうと考えた。
幼い頃に亡くなってしまった弟のサミュエルで六歳という短い人生だった。
流行り病によるものではあったが子どもながらにルイーズも四つ下の弟を
「サミュエル……、すぐに戻ってくるから」
彼女はすぐに荷物をまとめてからすぐにラフォンテーヌ侯爵家のもとへ向かう準備をして眠る。
翌日、ルイーズは母の実家であるラフォンテーヌ侯爵家へと向かう。
迎えの馬車には動きやすい服装をしているアレクサンダー、グレイヴ伯爵と共に向かっているのがわかったのだ。
「ルイーズ、久しぶりね!」
「シャルロット姉様」
そう言って馬車を降りるなり出迎えてくれた若い女性にルイーズは抱きついてしまった。
彼女は金茶色の髪にはちみつ色の瞳をしているが、顔立ちはルイーズによく似ているので姉妹みたいにも見える。
「今日はアレックス様も」
「噂はかねがね聞いております。お手合わせを楽しみにしておりました」
「ありがとうございます。それでは向かいましょう」
そのなかで剣術のできる武術場で使い慣れている剣でシャルロットの剣と交わらす。
ガシャンという大きな音が聞こえてからすぐに交わったまま、彼女の方へとルイーズは攻めて行こうとしていた。
しかし、シャルロットは一度力を緩めて全体重を預けていたルイーズは思わず体制を崩しそうになるが立ち上がって剣を受け止める。
「ルイーズ、これでも騎士として過ごしていたんでしょう?」
「ええ」
すぐにルイーズが剣を一瞬で持ち変えてからシャルロットに詰め寄り、何度か剣を交わしながら相手の体勢が崩した瞬間を見逃さずに剣を手から弾いて剣を首筋に寸止めにしたのだ。
「参ったわ。腕を上げたんじゃない?」
「そうね。姉様も相変わらず強い」
「ありがとう。アレックス様も」
「はい」
そう言ってアレクサンダーもシャルロットと手合わせをしたが、少しの隙を見つけられてすぐに剣を弾かれてしまった。
「うわっ、まずいな」
「そうですね。アレックス様も腕を上げていますよ?」
「ありがとう。ルイーズ、アドバイスがあれば」
「詰め寄ろうとしたときに怖気づいてしまうことがありましたよね? そこを姉様が気づいて」
「そういうことか」
それから着替えてからアレクサンダーもルイーズも普段着用のドレスを着て来客用の応接間へと向かっていたときだった。
客間にやって来たのは子どもの頃からずっと見ているメイドの母娘だった。
最初に恭しく礼をしたのは母親のエレーヌ・ビロで茶色の髪に瞳をしている女性で五十代ぐらいになるはずだ。
そのままティーセットを持ってきていたのが見えてテーブルに容易としていく。
「あら。アンヌとエレーヌ。お久しぶりです」
「お久しぶりです。ルイーズ殿下」
「今まで通りで呼んでほしいわ」
「そうですね。王太子になられても、変わらずにルイーズ様とお呼びさせていただきます」
そのときに隣にいた娘のアンヌも少しだけ緊張しているような表情をしている。
年齢はアレクサンダーと同い年の十七歳、成人を迎えて一人前のメイドとしてラフォンテーヌ侯爵家で働いている。
血の繋がりの無い
それを見てルイーズも安心をしているところだった。
「ルイーズ様、ご無沙汰しております」
「アンヌも元気だった? 体調は良さそうね」
「ええ、頭痛もないですし――」
そのときに彼女は少しだけ顔をしかめて倒れてしまったのだった。
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