第3話 狂人は身近に潜んでいる

「文乃ちゃん、おはよう!!」

「おはよう!」

 どうも、文乃です。学校ではどんなことでも知っている博識な奴、の、文乃です。彼女は真面に名前を覚えていない同級生(おそらく。教室に他クラスの生徒は入っていけないのである。これを破るとこれまた名の知らぬ、常に眉間にしわを寄せ、ほうれい線のある恐ろしい先生に怒られてしまうのだ)の女子に小さく手を振った。彼女は小さく、だれにも気づかれないくらいに小さく口角を上げた。

 誰も知るまい、今私が読んでいる本が太宰治様の「人間失格」であることを。昨日は「斜陽」、一昨日は「走れメロス」を。明日は太宰治様が尊敬、いや、敬愛(取り敢えず言えることは手帳に「芥川」と何回も書き連ねていることだ)していらっしゃった芥川龍之介様の「羅生門」を。明後日、明々後日はなにを読もうか。明日は幸運なことにたまたま塾が休みだ。時間はたっぷりある。私は小さいころから一週間、何を読むのかを決めてから本を読んでいる。時々予定を変えることはある。例えばその日が雨の時、特に大雨の時(しかも学校があるとき)、私は宮沢賢治様の「雨ニモマケズ」を読みたくなる。そんな例外を除けば私は計画通りに行動する。

「文乃ちゃん、今日の漢字テストの範囲ってどこだっけ?」

 文乃は穏やかに顔を上げる。邪魔されたことで少々不機嫌になってしまっていることを悟られてしまってはいけない。

「確か...66ページから69ページまでだよ」

「勉強した?」

「いいや?まったく」

「またまたー」

嘘などついていないのだが...。しかしこういわれてしまう圧倒的な理由がある。それは中学三年生になっても定期テストや小テスト等、その他すべてのテストでミスをしたことがないからである。



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