第10話
そして月日は流れ、季節は春になった。
「ただいまー」
「おかえり、シノ。」
玄関を開けてリビングの方から聞こえたのは、聞き慣れたザックスの声だった。
「あっ、もう帰ってたんだ。」
「ああ。今日は依頼を片付けて来たからな。」
私達は順調に関係を進め、今は一緒に暮らしている。冒険者を生業にしているザックスは元々宿暮らしだったらしく、私がお店にしている家に空き部屋があったので私から誘ったのだ。依頼をこなす間は家を空けるけど、それでもかなり二人の時間が増えた。
彼がSランク冒険者であるということに変わりはない。だから当然のように毎日一緒にはいられないが、それでも彼は可能な限り会いに来てくれたし、私もそれに応えた。デートと言えるようなものは出来なかったけど、2人で会う時間はかけがえの無いものだった。
「ふふっ、ザックスは相変わらず忙しいみたいだね。でも良かったあ。最近あんまり会えてなかったもんね。」
「まあな。でも、それもやっと落ち着いたところだ。」
「へぇ〜!じゃあ明日あたり久しぶりに休みが取れたり?」
「おう、そういうことだ。それでなんだが…」
「ん?」
「その……だな。」
珍しく歯切れの悪い様子に首を傾げる。
「どうしたの?」
「あー……その。明日、俺と一緒に出掛けないか?」
「! うん!行きたい!…あ、でもどこに行くの?」
「それは着いてからの楽しみにしておいてくれ。」
「ええ?何それ?」
悪戯っぽく笑うザックスを見て、私もつられて笑った。ザックスのことをもっと知りたい。彼と一緒に色々な景色を見てみた
「さて、じゃあそろそろ寝るか。」
「うん!そうだね。あ、ザックス、こっち来て?」
「?」
ザックスが隣に来ると、私はぎゅーっと思い切り抱きついた。
「っ、シノ!?どうした?」
「えへへっ。なんとなくこうしたくなって。」
顔を真っ赤にし手を彷徨わせるザックスだったが、やがて戸惑いながらも抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。
「ったく、しょうがねえな。」
呆れたような声色とは裏腹に、表情はとても穏やかだった。それに嬉しくなり、腕に力を込める。
「……ありがと。」
「おう。」
***
翌日、私はザックスと共に街へと繰り出していた。
「ねぇ、結局どこに連れて行く気なの?」
「もう少ししたら着くはずだ。」
「!」
そう言いながら、彼は私の手を握ってくる。
付き合い始めて少し経った頃、ザックスが教えてくれたことがある。『俺は今まで女に相手にされないし興味が無くて付き合ってこなかったから、こんな風に誰かと出かけるのは初めてなんだ』と。それを聞いていたからこそ、今日こうして二人で、恋人として外出出来たことを嬉しく思っていた。
(私も前の世界含めて男の人と二人きりで出かけたことないから、お揃いなんだよね。ふふ、そう思うと余計に嬉しいな。)
思わず口元を綻ばせる。街外れまで歩いてくると、不意に立ち止まったザックスがゆっくりとこちらを振り返った。
「シノ、ここだ。」
言われるままに見上げると、そこには小さな教会があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます