第3話

(あれ?なんだろうこれ?……私、この人のこと気になるのかな?)


自分の初めて抱く感情がよく分からず戸惑っていると、彼がこちらに手を伸ばしてきた。思わず身を固くし目を瞑ったが、その手は優しく頭を撫でただけだった。経験などないのに、その温もりに何故かひどく安堵する自分がいた。

カサリと音を立てながら落ちる葉を見やり「髪についてたぞ」と彼は言った。


「あ、すみません…ありがとうございます。」


恥ずかしくなって俯いていると、今度は彼の方から声を掛けられた。


「……なあ。アンタが迷惑じゃないなら、またこうやって会ってくれないか?」

「へっ!?」


予想外の申し出に私は目をぱちくりする。


「っ、もちろん無理にとは言わねえよ!ただ……その、もう少し話がしたいと思ってな。」


彼は頬を赤らめ、照れくさそうにしている。


「えええ!?でででもあの、わ、私なんかと話しても楽しくないですよ!?」

(美醜逆転のこの世界では少しだけ良い見た目かもしれないけど、コミュニケーション能力なんてないんですっ…!)


慌てて否定するも、彼は首を横に振った。


「俺は楽しいぜ。それに、アンタはどうな

んだ?……やっぱり俺なんかと一緒にいるのは嫌か?」

「そ、それは……嫌ではない、です。というか、嬉しい、かも?」

(イケメン過ぎて眼福です……)

「!! 本当か!?」

「は、はい……」


勢いに押されてつい返事してしまう。でも、嫌ではなかった。むしろ話している間は楽しかったと思う。流されてみるのもいいかもしれない、と思うくらいには。


「よし!じゃあ決まりだな!」


彼は満足げに笑うと、続けてこんなことを言い出した。


「俺はザックス・オルコット。冒険者ギルド所属のS冒険者で、一応剣士ってことになってる。よろしくな!」

「ザックスさんですね。ってええっ!?冒険者の方だったんですか?しかもSランク!?」

「おう。」


Sランク冒険者といえば、この世界で数人しかいない超エリート中の超エリートである。

そんな凄い人がどうして私なんかと? と驚きすぎてぽかんとしていると、彼は困ったように笑っていた。


はっとして、ザックスさんにならい私も名乗る。


「私は鷹瀬紫穂です。ザックスさんに合わせると、シノ・タカセになります。まだこの街に来たばかりなんですけど…えっと、よろしくお願いしますね。」

「シノ、だな。……ああ、よろしく頼む。」

 


こうして私たちはお互いの名前を知った。

そして、これをきっかけに彼と交流を深めていくことになるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る