イギリス人観光客と仔猫「すみえ」
とあるリゾートホテルの敷地内で、鳴いていた1匹の仔猫。
母猫はどこにいるのか分からない。
仔猫はいつ見てもひとりぼっちだった。
イギリスから来た観光客の1人が、仔猫の存在に気付いた。
観光客は仔猫を連れてイギリスに帰ろうとしたけれど、検疫の問題で叶わず。
「誰か、私の代わりにあの子を幸せにしてあげてほしい」
仔猫のことが忘れられないその人は、イギリスに帰ってからホテルにメール送信を始めた。
毎日毎日、似たような内容の懇願メールが届く。
困り果てたメール対応担当スタッフが、ホテル従業員全員に呼び掛けた。
「誰か、あの仔猫を貰ってくれない?」
しかし、猫を飼える物件に住んでいるスタッフたちは、もう既にホテル内で拾った別の猫を飼っている。
さすがにもうこれ以上は飼えないと言って断られ続け、他にアテはないかと必死なメール対応スタッフと人事スタッフが、相談したのは当時リネン室で働いていた僕。
「毎日毎日『すみえちゃんを助けて』ってメールがくるんだよ~」
「もうヘトヘトだよ~」
「何かいい方法はない?」
相談というより、疲労困憊で泣きついてきたような?
それは2017年12月。
前エピソードの「トラ」「シロ」「ミケ」が貰われた翌月のことだった。
「しょうがないなぁ、保護して里親探しますか~」
そう答えて、敷地内へ仔猫を捕まえに向かった。
イギリス人観光客が「すみえ」と呼ぶ仔猫は、大体いつも同じ場所にいる。
それは、住み込みスタッフの部屋の前。
スタッフが餌をやっていたので、すみえは飢えずに済んでいた。
それならそのままそこで地域猫にしたらいいように思うのだけど、イギリス人さんは完全室内飼いを求めている。
「ゴハンだよ、おいで~」
餌やりスタッフから渡されたドライフードを見せながら、すみえを呼んでみた。
同じ場所で餌付けされていた仔猫は、いつもと違う人間が餌をくれることに戸惑いつつも、ソロリソロリと近付いて来る。
餌を食べ始めた瞬間、仔猫が反応するより素早く首根っこを掴んで捕獲!
そのまま首の後ろを掴みながら、固まって動けなくなった仔猫を抱っこしてメンテ室へ。
メンテ室には、猫を飼っているスタッフが持ってきたキャリーが用意されていた。
「はい、捕獲~」
「はやっっっ!」
アッサリ捕獲して帰って来たからか、メンテ室にいた人々が驚いていた。
メンテ室で夕方まで預かってもらい、仕事が終わったらすみえ入りキャリーをお持ち帰りして、我が家での保護開始。
すみえは臆病だけど、攻撃性は無いので扱いやすい子だった。
人馴れの基本はできていたおかげで、保護主には1週間で慣れた。
病院で健康診断やノミダニ駆除薬の滴下をしてもらい、ワクチンも接種して、しっぽの会譲渡会に参加させた。
しかしすみえの譲渡会参加はてんでダメで、Sケージに入れて展示した途端、ケージ底に敷いていた座布団を跳ね上げて潜り込んでしまう。
笑えるくらい素早く徹底した隠れつぷりだった。
なかなか貰い手がつかないすみえに声をかけてくれたのは、ペット可の物件に引っ越しをしたホテルスタッフ。
すみえはホテル関係者内で譲渡が決まり、今でも気軽に様子が見られるようになった。
保護主のことは1週間で忘れ去ってしまい、逃げ回るようになったけど。
ちゃんと可愛がってもらえてるから、ヨシとしよう。
※画像「すみえ」
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093080016293054
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