リクエストに応えて現れた? 仔猫「ゆめ」

 石垣島に移住3年目の2017年夏のこと。

 人生初の「保護猫」となったのは、アバラが浮くほど痩せている1匹の仔猫。

 グルグル巻きになっている珍しい尻尾の持ち主は、保護される前から里親希望者がいた。


「黒猫の女の子が欲しい」


 仕事仲間Mさんから、そんなリクエストを受けた。

 当時は別荘地に居着いた野良猫たちの餌やりをしていた時期。

 その現場にいた黒猫たちは、交通事故で他界した後だった。


「もしも見つけたら連絡するよ」


 そう答えてから1~2日後。

 別の仕事仲間Cさんから、電話がかかってきた。


「小学校の校門の前に、ガリガリに痩せてる仔猫がいるんですけど、どうしたらいいですか?」


 人生初の猫相談。

 今では週1ペースでくるぐらい聞きなれた相談だけれど、当時は他に受けたことが無かった。

 リクエストを受けていたこともあり、電話で仔猫の毛色を聞いてみた。


「Mさんが黒猫の女の子を欲しがってるんだけど、その子は何色?」

「えっ本当? 黒です!」

「じゃあすぐ拾って。Mさんに見せよう」

「はい!」


 そんなやりとりの後すぐ現場へ向かい、小学校の校門前で待っていたCさんと合流した。

 仔猫はアバラが浮くほど痩せていて、具合が悪そうに見える。

 医者に見せた方がいいなと思い、仔猫を抱いたCさんを車に乗せて動物病院へ。


「シラミがいますね。この毛先の白い粒がシラミです」


 動物病院の先生が、最初に気付いたのはシラミの存在。

 黒い毛の先に白い小さな粒が付いていて、それがネコハジラミという虫だと教わった。

 シラミに効くフロントラインという駆虫薬をつけてもらった。


【ネコハジラミ】

 ハジラミの1種で、猫に寄生する。

 人には寄生しない(人間につくのはアタマジラミという別種のシラミ)

 条虫の中間宿主で、ネコハジラミがいたら内部寄生虫「瓜実条虫」もいる可能性あり。


「こんなに痩せているのは、お腹の中に虫がいるか、健康を害する何かがあるのかもしれません」


 そんなアドバイスを受けた後、また仔猫とCさんを車に乗せて、今度はホームセンターに向かった。

 当時は動物を飼っていなかったので、ケージなどは持っていない。

 仔猫の保護にどんなケージを使うかも知らず、買ったのはウサギ用のケージ。


「嫌がらないかなぁ?」

「あ、自分で入ってった」


 Cさんと2人がかりでケージを組み立てて、布団代わりに職場で貰った古タオルを置いてあげた。

 それが気に入ったのか、自分でケージに入っていく仔猫。

 その後、仔猫は5日ほど我が家に滞在した。

「ゆめ」という仮名をつけたのはCさん。


 Mさんに知らせたら、休みの日に奥さんと2人で仔猫を見に来てくれた。

 お見合いのためケージの扉を開けても、仔猫は出てこない。

 チョコンと座ったまま、Mさん夫妻を見ていた。


「ケージの中が落ち着くのかな?」

「外で怖い思いをしたからかも」


 そんな会話をしながら、奥さんの母性本能に響くものがあったそうで、仔猫はMさん夫妻の子になった。

 かかった医療費はMさん夫妻が払ってくれて、ケージも買い取ってくれた。

 Mさんの家族になった仔猫は、今では幸せ太りしたぽっちゃり黒猫になっている。



※「ゆめ」画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093079692050253

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