第33話 一難去らずにもう一難

 メイナード先輩の問題はまだまだ解決の兆しもなく、私の頭を悩ませている案件の一つだったのだけど、それはそれとして私は今また新しいトラブルに巻き込まれていた。……そう。現在進行形で。

 今、私はどういう訳か突然降って来た水で全身びしょ濡れになっているところだ。


 正確に言えば、最初は廊下を歩いていたら何かで足を引っかけられ転んだ。全くの不意打ちだったので、私は見事に地面にひっくり返って、顔面をぶつけてしまった。

 その時点では普通に自分の不注意で転んでしまったと思ったので、ウワー!恥ずかしい!!!!!くらいに思いながら、起き上がろうとしたのだけど、どうやら周りでクスクス笑っている女生徒たちの笑っている意味は、私が何もないところで転んだから…という訳ではなかったらしい。

 私が転んだ時に落としたノートと筆箱が誰かの靴で大胆に踏みつけられてガシャンと嫌な音がする。


「あ」


 それに驚いた私が思わず顔を上げると、目の前でバシャアと水風船が破裂したみたいな勢いの水が降ってきたので、私は顔面でそれを受け止めてしまった。

 これはつまり……水の魔法である。クスクス笑いだった女子たちの声は、明確に嘲笑の笑い声へと変わっていた。


「あははは。良いザマね!身の程と言うものを知らないからそんな目に合うのよ」

「本当いい気味!」


 ……お?…お…。これは…。なんだなんだ。何が始まったんだ?

 周囲の不穏な雰囲気に私は、とりあえず水浸しの髪を乾かす為にぶんぶんと勢いよく首を振って水滴を周囲に飛ばした。女子たちの悲鳴が上がる。


「ちょっと!!!!水を飛ばさないでよ!!!」


 そもそもこれアンタらが濡らしたんだよ…と私はそれを無視する。

 なるほど、これはアレだ。いわゆるイジメだわ!!

 これが何も知らない女主人公ヒロインアルカシアだったら…、あるいは春日穂波がまだ本当に15歳の少女だった頃なら、こんなことされたらさぞかしショックで傷ついてしまったことだろう。

 しかし、残念…もとい幸いなことに今の私の中身は、異世界転生でテンションが上がっちゃってる乙女ゲーマーなのだ。

 ショックを受けるより先に、「ああああーーー!!!!!!確かにゲームでこういうイベント有ったわ~~~~~~~~懐かしい~~~~~~~」みたいなテンションになってしまっていた。

 …そう。確かにゲームでこう言うイベントがあった。あれはメイナード攻略ルートだったはずだ。彼の好感度がある程度上がった状態で起きるイベントだったと思う。彼の取り巻きの女子達に、メイナードに馴れ馴れしく近づくなとか言われて嫌がらせをされるのだ。

 …いや~~~。クラウスの件もあったけど、今回も好感度を上げた身に覚えがないんだよな~~~~。むしろこっちからのメイナードの好感度は下がってるまであるんだよな~~~~~~。

 …なんて、ついついプレイヤー視点で考えてしまっていて、私が少しも困った顔をしていなかったからだろう。いじめっ子女子たちは、面白くなさそうにギャーギャー喚いている。


「…エート、それじゃあ、もういいです?」

「いいわけないでしょ!?」


 早く着替えるか魔法で乾かさないとな~と思いつつ、さっさと立ち去りたい私が一応そうお伺いを立ててはみたものの、いじめっ子女子たちもまだ気が済まないみたいだ。


「アンタ、自分がなんでこんなことされるかわかってんの?」

「メイナード先輩の周りをウロウロしてて目障りだ失せろってことですよね?」

「そ、そうよ!わかってるなら、反省して今後は—……」

「はい、皆さんからも是非メイナード先輩に良く言っておいて下さると助かります」

「は?????」

「あ、間違った…。エート…はい!先輩の周りをウロウロしたりしません!じゃ!!!!」

「ちょっと待ちなさいよ!!!!!!」

「アンタ生意気なのよ…!!!」

「そうよ、私たちのこと馬鹿にして…!!!」


 別に馬鹿にしてる訳ではないんだけど、人を虐めてくるような連中を喜ばせる為に怯えて見せるほど優しくはないだけなのだよね…。

 ある意味では、こんな昔の少女漫画みたいな古典的なイジメを体験出来るなんて貴重な体験かも~~~…なんて太々しいことを考えてしまうくらいで……。

 そんな風な態度がよほど気に入らなかったらしい。

 「ちょっとこっち来なさいよ!!!」とか言われて強引に両サイドから腕を抑え込まれて、何処へかと連行されてしまう。


 えー?えー????????あのイベントにこんな展開なかったよね…。

 いやいやさすがにこんなイベントに追加描写要らなくない????


 考えてみればこの段階でちょっと無理やりにでもこの子たちを振り解いて逃げてしまえば良かったのだけど、ついつい状況を見守ってしまったのが良くなかった。

 …あ、これダメな奴だ…と気が付いたのは、学園でも校舎の奥の、しかも端っこの方にある用具準備室みたいな部屋に蹴り入れられて、無情にもドアを閉じられた時だった。

 私はまた顔面から床にダイブを決めてしまっていて、慌ててドアの方へ振り返った時にはもう、ガチャンと外鍵をかける音が聞こえ、暗い部屋に一人取り残されてしまっていた。


「うっそぉ…」


 ここまでしちゃうか~~~~~~…………って、私は何処か他人事ならぬゲームのプレイヤー視点みたいな感情で呟いてしまった。

 

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