第34話 薄闇の中で待ち受けるもの

 メイナード先輩の厄介ファンに絡まれて用具準備室に閉じ込められてしまった私。

 とりあえず、びしょ濡れのままではいられないので、風の魔法で衣服を乾かすことにする。難しい魔法はまだ使えないけど、扇風機みたいに強い風を吹かせる魔法は幸い覚えていた。(火の魔法なんて使うと間違って自分を燃やす可能性があるので止めておく)魔法をドライヤー代わりに使うのもどうかと思ったけど、緊急事態ですからね。勘弁して貰おうね…。


 服と髪を乾かし一息ついてから、私は改めて自分の置かれている状況と状態を確認する。

 連れて来られるときは何処へ連れていかれるのかと思ったけれど、部屋に置かれた物品の数々を見る限りやはり用具準備室の一つのようだ。…ただ、自分が先生に頼まれて道具を取りに行ったことがある部屋とは違ったので、別の学年用の教材が置かれている部屋…あるいは、ここまで奥まった場所にあったことを考えると、最近は使われていない道具が置かれている部屋なのかも知れない。

 …そうなるとちょっとまずい。この部屋に近づく教員や生徒がほとんどいないとなれば、偶然この部屋に来た人がカギを開けてくれるというのが期待できない。

 試しにドアノブをガチャガチャ回してみるけど、当然開かない。そもそも中から鍵を開け閉めする想定ではないのだろう。内側からは開けられないようになっている。

 では、窓は?

 暗い部屋を転ばない様に気をつけつつ奥へと向かってみるが、随分と高い場所に小さな換気用の窓があるだけのようだ。

 かなり高めの脚立でもないと届かないし、あそこを開けられたとしても人が通り抜け出来るサイズでもなさそうだ。

 そうなると、物理的に脱出する手段はドアか壁を破壊するしかないだろう。


(…とは言え…)


 魔法を使っての構造物破壊…は、出来る出来ないはやってみないとわからないけど、さすがに学校のドアや壁を破壊したら怒られるじゃすまないんじゃないかなぁ…とも思うのである。

 いや、悪いのはこんなところに閉じ込めたあの子達なんだけど…。


(学園一の魔法使いになるためには、先生方の心証も悪くしたくないんだよね…)


 例え実技で文句なしの成績を出したとしても、素行でマイナスされてしまっては学園一とは認められないかも知れない。教師たちにも認められなければ秘宝の継承権を得られないかも知れない。それは非常に困るのだ。


(出来ればあまり大ごとにならない方法で脱出したいんだよな…)


 …と、色々考えはしたものの、私はそこまで慌ててはいなかったりした。

 ここがいくら人が偶然通りかからないような奥まった場所だとしても、私がここに連行されている姿を途中で見ていた生徒は少なからずいるはずで、見ていた生徒が不審に思って教員に伝えてくれていれば、こっちの方に様子を見に来てくれるかも知れない。それに、ルームメイトのリリーが私の帰宅が遅いことに気が付いて探してくれるかも知れない。


 一応、原作ゲームでメイナードの取り巻きに虐められるイベントだと助けてくれるのは当然メイナードなんだけど、それは好感度が高いからこそな訳で…。現状ではそこまで好かれてないはずだしなぁ…と言う思いと、でもイベントが起きてるってことは条件が満たされてる扱いになるのかなー……と言う思いが同時に浮かんだけれど、確かめる方法もないので私は考えるのを止めた。

 そもそも彼に恩を作りたくない!!!!!今回の件の元凶だし!!!


 そんな風にメイナードの顔を思い浮かべてイライラしてしまった私は、彼の顔を意識から追い出そうとぶんぶんと頭を振ってから、再び壁の高いところにある窓へと視線を送る。

 ヴィオリーチェを呼び出した時のように風妖精の魔法で誰かにSOSを送ると言うのが一番現実的だろうと言う結論に至ったのだ。

 …だが、あの魔法にも実は制限がある。それは、"風"の行き来が出来る場所である…というものだ。つまり、どちらかが密室などの閉ざされた場所にいる場合、妖精が声を届けることが出来ず、魔法の効果は見込めないのである。

 だから魔法を成功させるためには、まずあの窓を開ける必要があるのだが……。


(…窓まで何メートルあるんだろ…これ。そもそも、なんであんな高さに窓を付けたのか理解に苦しむなぁ!!!)


 見上げた窓は3mくらいはありそうだ。

 多分、魔法を使ってどうこうしてるんだろうけど、もしかしたらどこかにレバーがあってそれを回すと窓が開く…なんて仕掛けになってるかも知れないし…と僅かな願いを込めて部屋の中を探索することにする。


 薄暗くどことなく埃臭いその部屋の中は、改めて眺めてみると見たことのない道具が所狭しと並んでいる。

 この学園にあるんだからきっと魔法道具マジックアイテムなんだろうな…とは思うけれど、私にはまだそれが何かわからない。

 ただ、これまでに受けた講義でも未知の魔法道具マジックアイテムを扱うのには細心の注意を払うべしと教わっていた。物によっては、絶大な力を秘めている物もある為、取り返しがつかない深刻な事態が起きてしまうことだってある…と言うのがその理由らしい。

 そんな訳で、私も迂闊に触ったりしない様に気を付けていた。


「…?」


 そんな中で部屋の奥まった場所にぽわっとした淡い光が灯ったのが見えた。


(———さっきまではあんなの光ってなかったよね?)


 怪しい…。

 …でも、さすがに気になる……。


「……………え?」


 近づいて行った私が見つけたのは、美しい彫刻が施された台座に置かれている水晶球オーブだった。

 ぽわっとした淡い光を放っていたそれは、こころなしか私が近づいて行くにつれてその光の強さが強まっているように感じていたのだけれど…、私が「水晶球オーブだ」と認識するくらいまで近づいた瞬間、それは起こった。


「……!!!!!?」


 それまでのぽわぽわとした光り方ではなく、カッ!と眩く強い光が私の視界を覆った。

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