第14話 大事なことは存外シンプルで

 休日の公園。

 私は、今地面の上に正座をし、ちょっと目つきは鋭過ぎるけれど王子様風のイケメンに詰められている最中だった。

 氷の王子の異名を持つ彼、クラウスから「盗み聞きなんてはしたない」とか「場合によっては大きな問題になる可能性だってあった」とか、淡々とお説教をされ続けている。彼の言っていることはご尤もであり反論の余地もないため、私はただそれを黙って聞いているしかなかった。

 ………勿論反省はしているんだけど、お説教があまりにも長いものだから私の集中力も切れてしまい「さすが氷の王子顔が良いな…」とか「冷たい眼差しで本当に背筋が涼しくなるの凄いな…」とか段々考えが反省から遠ざかって行っているのに、横で心配そうに見ていたジャンくんは気が付いたようだった。小さく肩を竦めてから助け船を出してきてくれた。


「まぁまぁ、クラウス先輩。アルカも反省してるようだし、そのくらいで…」


 ジャンくんの言葉に、クラウスは仕方ないな…という様子でため息を一つついてから、私の方を見た。


「…で、何か言いたいこと…いや、違うな…。…聞きたいことがあるんじゃないのか?」


「え?」


「私とジャンがお前とヴィオリーチェの話をしているのを聞いて、盗み聞きなんてしようと思ったんだろう?それは、お前自身が私たちに知りたいことがある…と踏んだんだが?」


「は、はぁ」


 見透かされてしまっていることに、さすがに決まり悪くなってしまう。

ジャンとクラウスという組み合わせに対して好奇心が沸いてしまったというのも大きかったが、彼の言っていることもたいがい図星だったからだ。

 今、私が話したい事・聞きたいことと言えば、当然ヴィオリーチェとのことだ。とは言え、転生のことは話すわけには行かないし、勉強会のことも…私の中でにしたい気持ちがあって、つい口籠ってしまった。


「話したくないなら無理に話さなくても…」


「いや、話して貰う。…ジャン、お前もこの女の様子を心配していただろう」


「うっ…まぁ、それはそうだけどさ…」


「まぁ―——…どうしても話さないと言うのなら、暗示の魔法で話を聞き出すのでも私は良いのだが?」


 さ、さすがにそれはまずい!!!と言うか、そんなことまで出来るのは反則でしょう??そんなことされたら転生者であることまで話してしまうかもし知れないし、ヴィオリーチェにだって迷惑をかけてしまうかも知れない。それは困る…!


「ま、待って待って!話します!話しますからーーーー!!!」


 氷の王子はまさに氷の王子だった…。冷酷非道!人の心がない!うう…。ゲームじゃこんなイベントなかったのになぁ!


 そんな訳で私はヴィオリーチェとのことを、出来る範囲で…言葉を選んで相談することにしたのだった。

 私は、ヴィオリーチェに魔法の手ほどきを受けていたこと、それを急に彼女から休みにしたいと突き放されるように宣言されてしまったこと。もっと学園生活を楽しんで欲しいと、自分を気遣ってくれているのは分かったのだが、自分は自分で望んで魔法を教わりたいと思ったからとてもショックだった。…そんなようなことを話した。

 クラウスも、ジャンくんも真面目な顔でそれを聞いてくれていた。


「………」

「………」

「……それはつまり」

「…?」

「ヴィオリーチェに相手にされずに不貞腐れていたということか????」

「!!!!?」


 クラウスのあまりにもストレートな物言いに、私はいきなり顔にパンチでもされたかのような衝撃を受けてしまった!!身も蓋もなくない!?


「何が引っかかってるのか知らんが、ヴィオリーチェはお前を思って一旦は息抜きしろと言っただけで、お前を拒絶した訳でも否定した訳でもないように思えるがな」


「…!」


 私はクラウスの言葉に衝撃を受け過ぎて、つい助けを求めるかのようにジャンくんの方へ視線を向けてしまう。

 ジャンくんは少し困ったように苦笑して「俺もそう思う」と言った。


「もしかして、アルカ…。それでヴィオリーチェに嫌われちゃったとか思ったの?」


 ジャンくんにそう言われて、私は激しく動揺してしまった。

 確かに私は、クラウスやジャンくんが言った通り、自分がヴィオリーチェに嫌われて、見捨てられてしまったように感じていたんだ。彼女は、そんなこと一度も言っていなかったのに…!


「あ」


 固まってしまった私を心配そうな顔で見ているジャンくんの顔も、呆れたような目で見ているクラウスの顔も、この時の私には全然見えていなかった。

 自分でも自覚していなかった自分の感情があまりにも幼稚だったことにショックを受けていたし、凄く凄く恥ずかしくなってしまった…!


「わ、私…」


 あまりにも自分が情けなくて恥ずかしくてどうしようもなくなってしまった私が、つい両手で自分の顔を覆い隠したその瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ちょっと!!!何をしていますの?!!!!!!」


 それは今一番聞きたくて、今一番聞きたくなかった声だった。


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