第13話 休日のスニークミッション
ヴィオリーチェとの勉強会がお休みになってしまってから、1週間ほどが経っていた。
これまでこの世界に来てからの毎日はとても早く時間が過ぎていたのに、この一週間だけは嘘みたいに時間が経つのがゆっくりに感じた。
それくらいヴィオリーチェとの勉強会がない日々は、彼女と会えない日々は、私にとって精彩を欠いたつまらない世界に変わってしまったように感じて、私自身とても驚いていた。
確かに彼女は私の推しだったけれど、それはそれとしてこの世界は私が大好きなゲームの世界で、他の登場人物たちのことだって大好きだったはずなのに。
たった一つ、彼女だけが私から離れて行ってしまったというだけで、こんなにこんなに全部失ってしまったみたいな気持ちになるなんて、私は想像もしていなかった。
「……アルカ、アルカ。ねぇ、どうしたの?先週から様子が変だよ?」
休日だと言うのにベッドに丸まって、ただただ打ちひしがれて過ごしていた私を心配そうに呼ぶのは親友でルームメイトのリリーだ。
学校に行ってる時間以外は、こうして丸くなってるばかりの私を、彼女はずっと心配してくれている。
彼女に心配をかけないためにも、上っ面だけでも元気に振舞わなきゃっていつもいつも思っているのに、何故かそれが出来なくて、私は「うん」とか「平気」とかそんな言葉を返すことしか出来てない。そんな言葉じゃ、彼女を少しも安心させられないことなんて、わかっていたのに。
「何があったのかわかんないけど、ちょっと気分転換した方が良いよ!ずっと一人で考え込んでたってドツボにはまるだけだとおもうから…」
「うん……」
「うんじゃないよ!ほらほら、起きて!着替えて!」
半分死んでるみたいな私にリリーもついに業を煮やしたのか、私はベッドから引っ張り出され、半ば無理やりに着替えさせられると学生寮から叩き出されてしまった。
「お夕飯までには帰ってくるんだよ!じゃ、行ってらっしゃい!!!!」
「え、えぇ……」
正直滅茶苦茶びっくりした。確かに私が悪いんだけど、リリーがここまで強引に私を外に放り出すのも予想外だった…。
あまりにもびっくりしたから確かに彼女が言う通り気分がちょっと転換出来た気さえした。
とりあえずベッドに引きこもることは許されなかった私は、ふらふらと公園を歩いくことにした。
なんとなく街中へ行く気にはなれず自然と足がそちらの方へ向いてしまっただけではあったのだけど…。
季節が春と言うこともあり、公園には色とりどりの花が咲き乱れていている。
ゲームで見たままの景色がそこには広がっていて、改めてここが「魔法学園・クレッセントムーン」の世界の中であることを実感する。
ぼんやりとしたまま敷地内を歩いていると、きゃっきゃっと走り回る子供たちの姿や、ベンチに座って語らうカップルの姿がぽつぽつと見られる。
そしてその中に見知った人々の姿を見掛け、私は思わず物陰に隠れてしまった。
(…あれは…。ジャンくんと……クラウス…?)
見知った顔が二つ。何やら話をしている。
二人ともさすがは攻略対象と言う顔面の良さである。並んでいるだけでかなり絵になる…。
気になるのは話の内容だ。原作ゲームではあの二人、そこまで接点なかった気がするんだけど…。
(……ダメだ…気になる…)
それがあんまり良くないことだと思いつつ、私は茂みに身を隠し、彼らの会話をこっそり盗み聞きすることにした。ばれない様に、息を顰めて身を縮める。
「……————で、アルカが――――」
「…ヴィオリーチェは―――――――」
私とヴィオリーチェの話をしてる……?
「彼女は責任感が強いから――――――多分……」
「……でも彼女は酷く傷ついて――――――――」
責任感?ヴィオリーチェのこと…?
傷ついてるって?誰が?
近付き過ぎるとバレる可能性が高くなるから、ある程度の距離で妥協したんだけど、ここからでは断片的にしか会話が聞こえない。
私はどうしても気になってしまって、茂みの影を這うようにしながら彼らにもう少しだけ近づこうとした。
「…! 誰だ!」
茂みの葉に体が触れてしまいガサっと音を立ててしまった。それで気が付かれてしまったらしい。ジャンくんの鋭い声が飛んできて、私は観念して立ち上がった。
魔法の存在するこの世界で、下手に逃げ隠れしようとしたら攻撃魔法をぶつけられる恐れもあるし…。
「ご、ごめんなさい…」
投降をする兵士の如く、私は両手を挙げて二人の前へと出る。
「アルカ!?」
「……………」
私を迎えたのは、驚いた顔のジャンくんと、まるで私が居ることに最初から気が付いていたかのように冷静な表情のクラウスだった。
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