第12話 なんで!?どうして!?こうなった!?
「…アルカは、最近ジャンと仲が良いのね」
そうヴィオリーチェが呟いたのは、勉強会の合間の休憩時間だった。
一休みと言うことで、彼女が用意してくれた高級そうなクッキーを食べている時のことだ。
「……そう言えば―…風妖精魔法のイベントも最初に起こしていたのですものね…」
「へ?」
突然ジャンの名前が出てきたことに驚いた私は間の抜けた声を上げてしまったのだが、ヴィオリーチェは私のそんな反応に、ハッと我に返ったように少し慌てた様子で言葉を続ける。
「い、いえ、そういう噂を耳にしただけですのよ?毎日お昼を仲睦まじく一緒に食べているとか、毎朝一緒に登校しているとか…」
「えぇ…それは初耳だなぁ…」
寝耳に水だったこともあり、私は何だか
…が、一瞬遅れて冷静になる。
「…って、ええ!?…いやいやいや、誰がそんなこと言ってたの?!」
「…クラスの子だったり話しかけてくる一年生たちだったりですけれど…」
「えーえー……????」
どうしてそんな子たちが自分たちの噂なんかするのかも謎だし、それをわざわざヴィオリーチェに話に行くのもさらに不可解だ。
「………」
そして、ヴィオリーチェ自身の何故かちょっと不安そうな様子…と言うのも理由が思いつかなくて私の方もちょっと不安になる。
「たまにお昼を一緒に食べることはあるけど、朝はたまたま登校中に会った時に一緒に登校するくらいだから…毎日とか言われてるのは誤解かなぁ……」
「そうなんですの?」
「そうだよっ」
とにかく、変な噂で誤解をされているのなら心外だ。
ややこしいことになる前に誤解を解いておくのが一番だと思った。
「…もしかして…ジャンがゲームでの攻略対象の一人だから何か誤解してる?」
「え!?」
図星だったのだろうか?
思ったよりもリアクションが大きい…!
「ジャンは凄くいい人だし、友達として仲良くして貰ってるけど、恋愛対象としては別に見てないって言うか…。今は、そう言うの考えらてないからさ」
「……え?」
「今、一番大事に考えてるのは、魔法の勉強と修行のことだよ」
だからどうか不安に思わないでねって、安心して欲しくて私はそう言ったつもりだったんだけど、ヴィオリーチェの表情は和らぐことはなかった。
不安そうだった顔は、むしろ何故か段々と厳しくなってしまう。
「……アルカ」
「…う、うん?」
「……わたくし、最近…少し考えていたことがありましたの」
「…………どうしたの?改まって…」
ヴィオリーチェの神妙な様子に、私は何だか怖くなって思わず姿勢を正してしまう。
「…その、"魔法の勉強"…なのだけれど、少しの間、お休みにしようかと思っていますの」
「え?」
「わたくし…、自分のことばかりで焦ってしまって、まだ記憶を取り戻したばかりの貴女に相当な無理させてしまっていることに、ようやく気が付きましたの…」
呆然としている私を無視してヴィオリーチェの言葉は続けられる。
「ジャンとのことも…わたくしは別に、二人の邪魔がしたい訳ではないし、止めたい訳ではないのよ。…だって、折角好きだった乙女ゲームの中に転生したのだもの。好きな人と結ばれるために頑張るのだって、とても素敵なことだわ」
元の世界に居たら絶対に成就させることが出来ないはずの恋を、ここなら成就させることが出来るんだから…と、ヴィオリーチェは何処か寂しそうに微笑む。
「…ちょ、ちょっと待って、ヴィオリーチェ…だから、私はそんな…」
「だからね、アルカ。貴女にもっと気楽に…素直にこの世界を楽しんで欲しいって、そう思いましたの。……しばらくの間は…、思うまま楽しく過ごして下さいませね」
それだけ言うとヴィオリーチェは動揺する私を置いて、さっさと部屋から出て行ってしまった。
「………………」
ヴィオリーチェが死んだりしないように頑張りたかったのは間違いなく私の意思で、それを最優先にしようと決めたのも私で、ヴィオリーチェに無理やりやらされたなんて思っても居なかった。
そりゃあ、確かに好きだった乙女ゲームの世界だもん。例えばヴィオリーチェの死亡ルートの件がなかったら、もう少しゆっくり他のキャラ達ともお喋りしたり、イベントを起こして仲良くなったりして過ごしたかも知れない。
でも、別にそれを優先してないからって私が不幸だなんてことはないのに。
絶対にないのに。
この世界に来て一番ショックな出来事だった。
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