"白河の清きに魚も すみかねて もとの濁りの田沼恋しき"
田沼意次といえば汚職の象徴のように習った記憶のある方も多いのではないでしょうか。私もそのクチでした。
本作は、そんな田沼家の次男、金弥に嫁いだ水野家の老中の娘、八重姫と彼女にかかわることになった人々の物語です。
時代もの、というと歴史の背景を知らないと難しいかな、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、本作は婚家を顧みぬ夫とそれを詰る妻、というある意味よくある(?)メロドラマな展開から始まるのでそれほど構えずに物語に入り込めます。
ところが一転、第二、三話で大きな事件が起き、それをきっかけに夫婦の関係も、父との関係も変わっていきます。
あまり語りすぎると興を削いでしまうのでとにかく読んでいただきたいのですが、一つ言えることがあるとすれば、この物語では登場する人物全て伏線が張り巡らされ、昨今でいうところの「ざまぁ」な(?)大逆転あり、さらには夫婦の絆、親子の情、男女の機微など全部載せ、そして何よりままならぬ時代の背景を踏まえつつ、複雑ながらもそれを乗り越えようとする温かい人と人との絆を見せてくれます。
それはきっと普遍のもので、個人的には何だかとても勇気づけられました。
なお、金弥の本音が漏れたあたりからの可愛さと、八重姫さまの潔さ、そして吉太郎の曲者ぶり——と結局ぜんぶ好きでした!