唐突

「あ?」(どこだここは?)


勝は見知らぬ森の中に立っている。周りはほぼ真っ暗だ。

あまりにも意味不明な状況に勝はすぐに恐慌状態となった。


(どういう状況だ?なんでこんなところにいる?周りが暗い。怖い怖い怖い怖い怖い。。)


恐怖心が先立って、何をすべきなのか考えられない。平常心のときでさえ何をすべきかなど放棄していたのだ。ここにきて今まで積み上げてきた負債の一部が顔を覗かせていた。まるで取り立てる時が来たかのように。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


今まで自分の力で道を切り抜けてきた者には積み重ねてきた資産がある。ある者は胆力で恐怖心を抑えつけるだろう。ある者は感受性を薄くして、恐怖が通り過ぎるようにするだろう。あるものは集中することによって、恐怖を削ぎ落とすだろう。彼らは彼らなりの経験から得たもので乗り越えれる可能性を秘めている。


しかし、勝の場合は、、、、今の状況を乗り越えられるような土台はなかった。

草っぽい匂いがする地面に体を震えさせながらうずくまっている。今までの負債が彼の足を掴み、地獄へと引きずり込もうとする。


しばらくすると、近くの茂みからカサカサと音がした。


「ひっ」


彼は素早く立ち上がり、逃げた。全速力で。


「はっはっはっ」


彼は決して気持ちを奮い立たせているわけではなく、恐怖のあまり逃走しただけである。木にぶつかったり、枝が皮膚を切り裂いたり、石が足の裏に突き刺さったりしていたが、なりふりかまわず走った。


しばらく走っていたが体力不足のためすぐに息切れしてしまう。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

木の根元に腰を落ち着かせ、呼吸を整える。


勝はふと自分の体をみた。暗くよく見えないが手で触れた感触からうっすらと腕や顔、足から血が流れているのがわかる。


(手と腕はまだ大丈夫だが、足がやばい!血だらけだ!くそっ、なんで靴履いてないんだよ俺は!)


足の痛みに顔を歪めながらも、アドレナリンが出たことで多少平静を取り戻す。


(なんでこんな目に?俺はどうすればいい?)


彼はこの場所にくる直前のことを思い出した。

(俺は確か、、、夜中までスマホをずっと弄ってて、、、眠くなった時点で寝たはずだ。寝ているときに運ばれたのか?それとも夢か?俺を山に運んでなんの意味がある?だれかの恨みを買ってたのか?)


考えても今の状況は理解できなかった。


(考えても結論はでないし、とりあえず夜を凌ぐことが優先だ)


勝は森での夜の過ごし方など全く知らない。よく耳をすませば遠くから獣の鳴き声が聞こえる。虫もそこら中に飛んでいる。


(冬じゃなくてよかった。冬なら死んでた。しかしどうしよう。何をすればいいのかわからないし、とにかく夜は怖い。)


勝はその場所でうずくまることにした。立ってウロウロ歩き回るなど怖くてできないし、歩き回る理由を見いだせないからである。

勝は震えながら、朝が来るのを待った。


ーーー他人から見たら自殺行為に見えただろう。











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