第25話 契り 二 死線を
千尋丸あらため蠣崎一太郎季忠。立派な名だが、十一になったばかりだから、つまりまだ子供である。
(初陣ゆえ、まずはこの程度の仕事のほうがよいか。)
新三郎は、あまり気乗りのしない、いつもの警察出動めいた出陣に付き添ってやりながら、この幼い当主を教育してやるくらいのつもりでいた。
新舘の強清水殿は圧迫に耐えかねて、ついに一家ぐるみ逐電し、郎党の多くも四散した。ただ、残党が新舘に残り、不穏である。あるじがいなくなったはずの新舘の「御所」たる屋敷を不法占拠しているので、これを退去させねばならない。
冷える。夕刻にはまた雪が降るのは、この土地の者なら誰でもわかった。
「蠣崎、つまらぬ仕事じゃな。早く済ませよう。」
「承知。」
と、明らかに油断した西舘の顔見知りの備の頭(かしら)に頷いてしまったのは、新三郎にも弛みがあったとしか言えない。
思ったより抵抗は激しく、やがて本格的な戦闘になってしまう。そして、あろうことか押された。立て籠もった者の数と戦意を、大きく見誤っていた。
(まずい。斯様な薄い囲み、破られるではないか?)
「いったん引きましょう。加勢がいる。他にもどこか近くに敵が潜んでいるやもしれぬ。」
新三郎の進言に、西舘の備を預かる頭はかえって昂奮し、意固地になった。
「なんの、もう門は破れた。かようなれば、叛徒は全て首を刈り取ってやらねばならぬ。」
「押し返されております。」
「引きずりだしてやったのではないか?」
と笑ってみせた将が、馬上で伏せた。冷気を含んだ陰鬱な色の空から、驚くほど大量の矢が降ってきたのだ。
(こんなに居りおったか。これは、残党どころではない。図られた?)
四散したとみせて、強清水殿の兵の大半は残っていたのだ。逐電したはずの主人が命じたのかもしれぬ。乾坤一擲の逆襲を図ったのだろう。
首を射抜かれた西舘の備頭(そなえかしら)が、馬から転がり落ちた。雪の上に真っ赤な血がたちまち広がる。指揮権が新三郎に移ったわけである。
(踏みとどまっても抑えきれぬ。)
退却を決意した。早いほうがよい。追撃の勢いで内館に攻め込まれぬよう、撤退戦をうまくやらねばならぬ。せめて相手が新舘から出られぬうちに加勢を呼び、新舘そのものを囲む戦の態勢を整えねば、浪岡城内を敵に席巻されかねない。
屋敷を包囲する形で散らばっていた兵を集結させ、門から飛び出てくる敵をいったん押し返した。
「深追いするな。」
相手を怯ませたところで、自分たちが殿軍となって、大半の部隊を下がらせる。
「よし、退く。走れ。」
矢の雨が再び襲って来た。
子供の足を忘れていた。十一歳の男子となると、抱きかかえて走るわけにもいかない。背後から降って来る矢の盾になるつもりで、新三郎は一太郎をかばうように汚れた雪をふんで走った。あまり斬りあわず、逃げるのが先決だと兵たちにはすでに命じている。
後ろから何かが弾ける音がした。その瞬間、新三郎はあばらを砕く勢いで背中から殴られたかと思った。銃弾が腕の付け根にちかい脇腹を撃ち、鎧の胴に穴を開けていた。
(しまった! 鉄砲まで持っておったか?)
よろめいたが、片手と膝をついただけで倒れない。一太郎をかばって立ち、走らせた。声は、出る。左手の脇の下に鈍い痛みはあり、血が噴き出ていているらしいが、
(どうやら弾は逸れた。心の臓もはらわたもやられてはいない。)
もう一発が、目の前の地面で爆ぜた。よし、とまっすぐに走る。
橋のかかった門に辿りついた。新舘に栓をするように集まっている自軍に迎えられたときは、兵をまとめる元気があった。
「鎧を脱がせると、桶から水が溢れるように血がざっと流れ出ました。」
一太郎は泣いている。大袈裟な言いようだったが、自分をかばって撃たれたように思い、動転しているのだろう。
屋敷で迎えたさ栄姫は、戸板で担ぎ込まれた新三郎のさまに、一瞬茫然とした。
幸い血も止まり、手当を受けたはずなのに、まだ戦場にとどまっているうちに、ほどなく躰に変調が来たのだと言う。躰が熱を帯びていた。熱が出ていればまず破傷風ではないのが救いであったが、すぐに全身高熱になった。立っていられなくなり、これは応急処置では済まないのが誰の目にもみえた。
血の気が失せた顔の新三郎は薄目を開け、戸板の上で躰を起こそうとしたが、さ栄が止めるまでもなく、そんなことはできない。何か呟いて、目を閉じてしまった。昏倒したに近いのではないか。さ栄は新三郎の手を握りしめ、心中で叫んだ。
(死ぬな、新三郎! 死なないでおくれ!)
さ栄の顔も蒼白になっているが、涙を抑え、てきぱきと新三郎を寝かせる指図をした。そして、
「あの国手(医者)を呼んでやって下さい。」
と、内舘の兄に頼む使いを走らせた。
さ栄を憂鬱にさせたことに、女の躰の変調を知ったあの夜からしばらくすると、左衛門尉は京から医者を呼びよせたのである。
さ栄の肌の病を治したいというのであった。左衛門尉は多額の報酬をおしまなかったのだろうが、それにしてもいかなる気紛れか、あるいは医師として珍しい症例を見たかったのか、忙しいはずの名医はたくさんの患者を置き去りにして、はるばる下ってきた。
たしかに国手(名医)かもしれぬ、と髭の似あわない痩せ面の京の医師の前に、もろ肌を晒して診せたさ栄が、秘かに思わざるを得なかった。些か軽佻な都会人らしく見えた医師が、自分には治せない、とあっさりと言ったためである。
「おそらくは、心気のお乱れが引き起こすものでしょうから、わたくしがモトから治せるものではござりませぬな。お痒くなられたときは、これまでどうなされていた? うむ、油はよい。似たような、痒み痛みを抑える塗り薬しか出せませぬが、よろしいか? ……いかなるご苦労おありか医者の知るところではないが、お気の流れをよくし、お心を落ち着かせてお過ごしになるとよろしい。お命にかかわる病ではない。長く、宥めながら過ごすべし。ご結婚されていた?……そうか、お嫁に行かれたとたんに、これに似たような、肌の腫れが不思議に引いた方もいらっしゃったから、それは残念にござる。」
「まあ、また嫁に行けば、治るもので?」
さ栄はこの医師の洒脱が何か気に入って、冗談のように尋ねた。兄もまさか言っていないだろうから、不徳義の罰が当たったのではないか、とは訊かない。それはそれだろう、とへんに割り切っている。
「単簡には申し上げられぬ。……お嫁入りはともあれ、できるならば、お心おくつろぎの内にお過ごしになられよ、とさようのみは申せましょう。……わたしは、切り傷や刺し傷、できもの、面疔の厄介なのは、たいてい治せる。破傷風と、心の内側から起きる怪我は、せん方なしなのでござる。」
「たいていは治せる、と申された。」
振りだした雪のなか、別に急いだ様子もなくやってきた医師が笠を脱いでいるところに、さ栄はふくが止めるのも聞かず、自ら出迎えて、迫った。
「今日、おみたてはいたします。明日からは雪もいったんはおさまるときいたので、いよいよ宿願の蝦夷大島と言うのを見物に、旅立つつもりでございますが……。」
「治してから、お立ちになられよ。怪我人は、蝦夷島の代官の跡取りです。郷里にあてて文でも書かせれば、ご便宜もはかれよう。」
臥所(ふしど)に急がせると、さ栄は語調を改めた。
「……お願いでござります。この者を、助けてやってくださいませ。この通りじゃ。」
貴人に頭を下げられるのは、馴れてしまっているのだろう。医師は別に驚きも慌てもしないが、意識を喪っている新三郎の脈をとり、難しい顔で頷いた。
「二人、助けられればよいの。」
「……?」
「姫君さまがお心落ち着けてお暮しになるには、この若侍が要るのでございましょう。いちどきにお二人を診るかのようじゃ。」
(苦しいようじゃな、新三郎?)
さ栄は新三郎が熱に喘いでいるそばに座り込んで、じっとその片手を握っていた。ときどき、頭を冷やす布を換え、汗を拭く。
医者は脇の下の肉の削げた傷口を開いて、割れてめり込んでいた銃弾のカケラをとりだし、膿んだ傷を洗い直したようだ。新三郎がたびたび鋭い悲鳴をあげ、無意識のうちに暴れたのを、さ栄たちも一緒になって抑えつけ、見たこともない荒い処置が施されるのを助けた。膿を出さなければ、熱は下がらないと言った。
傷口に当てた麻布を取り換えてやる刻限は、まだのようだった。
(できることなら、さ栄の命をやるぞ。汚れてしもうた愚かな魂じゃが、命は命じゃろう。欲しければ、今すぐ取っていっておくれ? ……神さま、さになさってくださいませぬか?)
さ栄は、新三郎が生きていてくれるならば、なんでもできると思っていた。医者を呼んだ時も、もしも兄が自分の躰などで代償を要求するのならば、それも辞さぬと覚悟していた。爾後、兄に飼われるような存在にされてもよいと思い詰めた。幸い、左衛門尉は何も言ってこないが、そこに別に安堵も感じなかった。新三郎の命ばかりが大事なのである。
(なにもできぬ……。さ栄には、なにもしてやれぬ。)
それが悔しく、つらくて、病人の側を離れられない。
布にはまだ、血膿がこびりついていた。それを新しいものと換え、また全身の汗を拭ってやる。
(新三郎……お前の寝顔を見たのは、二回目か。……すまぬ、これほどにお前は苦しげなのに、そしてわたくしもこれほどに心が痛いのに、……へんじゃねえ、綺麗で、愛おしいよ。……されど、この綺麗なお顔のまま、仏さまになったりしてはいかぬよ? また目を開けて、わたくしを見ておくれ! お口を開いて、へんなこと、楽しいことで、またさ栄を笑わせておくれ!)
新三郎の息が荒い。さ栄は、額に浮いた油汗を拭ってやる。
(新三郎、お前とわたくしは、似てしまったの。きょうだいを、おそろしい形で喪った。わたくしは父上もきょうだいに殺されてしもうたが、お前もきっと父君がごきょうだいを殺したのじゃろう? 一家で殺し合う。なんとむごいことであろう。こんな目に遭いながら、わたくしたちは平気のようにこの世を生きている。思えば、不思議じゃねえ。何故、そんな真似ができる……?)
(お前は、……お前は見事じゃったよ。ひとりで耐えた。乗り越えた。あの日もわたくしを、助けに来られるほどに。)
(友……友じゃったろう、瀬太郎は? 友を引きたてようと努め、その死に涙できる、ひとの心を持ち続けていた。)
(……わたくしは違う。とても、さようにはいかなかった。おそろしい罪を隠して、澄ました顔で嫁になど行って、ただただ身の穢れに怯えていた。人の心を忘れ、魚になってしまっていた。)
(……新三郎! お前だけなのじゃ。お前だけがさ栄を、ひとにしてくれる。生きようと思わせてくれる。)
(……お前と生きていきたい。お前がいない世には耐えられぬ。お前と生きていきたい!)
さ栄はそのまま二夜を過ごした。ふくや一太郎がどんなに代わると言っても、黙って首を振った。自分が倒れぬ程度にものは口にしたが、あとは病床の横に座り、ひたすらに祈り、苦しげな新三郎に心のなかで話しかけた。
夜明けにはうつらうつらしたが、はっと目が覚めると、怪我人の様子を見て、失望して涙ぐんだ。夜着から出た片手を握って、頬に当ててみた。まだ熱い。唇を結んで、激情を抑えた。
医師は、そのつもりはあっても、とても出立などできなかったであろう。雪がやむまでに、結局、三日目の午までかかった。
新三郎のほうが目覚めていた。まだ起き上がれないが、意識ははっきりしている。枕元にさ栄姫さまが目を閉じたまま、座っている。頭をがくりと落した拍子に、ふと目を開いて、こちらを見た。
「……新三郎?」
「……!」
新三郎の声は、咽喉にかかったように出にくい。
「無理なさるな。平気か? 痛みは? 熱は?……あ、いま、お医者を呼ばせる!」
立ち上がりひとを呼ぼうとするさ栄姫に、お待ちを、と目で訴える。
「しばらくは……。」
「何じゃ?」
「……しばらくは、このままで。」
「じゃが、新三郎、お前は大怪我で……。」
さ栄は新三郎の額に手を当てた。熱は下がっているようだ。
「よかった……。よかった! あ、平気か? 苦しうはないのか? 」
「はい。……姫さま。お願いが、……ございます。」
「何か? 何が欲しい? 何でも言うがよい!」
さ栄が勢いこんで尋ねた。回復が見られるのだ、と痛いほどの喜びが心に充ちている。
新三郎は、少し苦しんで、傷とは逆のほうの馬手(みぎて)を、姫さまのほうに差しだした。握ってやろうと反射的に前にかがんだ姫さまの肩に、その手を回す。柔らかく掴んで、ゆっくりと引き寄せた。
さ栄は驚いたが、されるままに体重を預けた。横臥したままの新三郎に覆いかぶさる形で、片手抱きにされた。伸びた首筋に、新三郎の溜息がかかった。
「……!」
「お許しください。ご無礼を、どうかお許しを。……これで、もう……。」
鉄砲傷で倒れたとき、新三郎は戦場に出るようになって以来、はじめて明確に自分の死を意識した。
これまでは、どれほど苦しくても勝ち戦ばかりであったし、たとえ手傷を負ったとしても、意識を喪うところまで来たこともない。無我夢中で戦うだけで済んでいた。そして、死はもとより覚悟の上だと思い込んでいた。
ところが、ついにはじめて死に直面したと思わざるを得なかったとき、武家の子としての教育で植えつけられ自分のものにしたはずの生死の心得など、なんの意味もなかった。死の手に掴まれたと認めた恐怖の一瞬、逆に自分の生きてきた日々を思い、無念の思いに叫びたくなった。
(一度でいい、姫さまをこの腕に抱きたかった。)
担ぎ込まれた時、姫さまのお顔を見た瞬間、剥き出しの悔恨に襲われた。最期にお顔を見られてうれしいと思う気持ちとともに、自分が何を切実に望んでいたのか、はっきりとわかって悔しかった。
今、半身を引き寄せ、姫さまの細い、しかし柔らかい肩に手をまわし、温かい背中に腕を置いている。驚くほど軽い体重を快く味わい、甘い肌の匂い、髪の匂いに包まれている。
こうしたかった。
身動き取れないように押さえつけているわけでもないのに、驚いたあまりか、姫さまは抱き寄せられた姿勢のままで、黙って動かない。跳ね退いてもいいのに、そうされない。新三郎はそれに安堵し、有り難いと思った。
「……お許しください。本望にございます。……これで、もう死ねる。」
姫さまが息を呑んだのがわかる。はじめて、少し躰を動かしたので、肩に回した手を外したが、起き直るでもない。横たわる新三郎の胸に縋るような、そのままの姿勢で、言葉が漏れた。
「……うつけを申されるでないよ。これで死んでしまわれては、困る。……困るのじゃ、新三郎!」
「……はい?」
「わたくしは、……さ栄は、お前とつっと一緒に、……」上から新三郎の顔を覗きこむような姿勢になる。はじめて顔が見えると、本当に困ったような笑顔に、涙が流れている。「……一緒におりたいのじゃから。こんなところで、……こんなことで、本望などと言うて、……死なれて、なるものか!」
「はい。申し訳もございません。……新三郎は、ここでは死にませぬ。」
「約定じゃぞ。……ゆるりとでよい、必ず、お怪我を治すのですぞ。」
「はい。」
「……お医者を呼ぶよ。」
躰を起こしてよいか、と言うのであろう。新三郎はこのまま息のかかる間近に姫さまの顔を見ていたかったが、頷いた。姫さまは座りなおすと、ふくを呼んだ。医者を呼びにたれかをやらせよ、と命じる。人手がないのだろう、ふく自身も去った。
さ栄は息を整えた。抱き寄せられたとき、自分の中で何かが喜ばしく弾けている。
(新三郎もやはり、わたくしと同じ想いを……!)
「新三郎、さきほど、つっと一緒に、とさ栄は言うた。」
「はい。……さきほどの不埒な真似、もしお忘れいただければ、これよりも変わらず、忠義を尽くし」
「忘れぬ! 忘れてやらぬ!」
「……お許しくださいませぬか?」
「違うよ。違うのじゃ、新三郎。……お前の変わらぬ忠節、いかほどにも有り難いと思うてきたことか。じゃが、……のう、勇を奮うて、頼むよ。」
「はい。なんでございましょう?」
「……考えて貰えぬか、新三郎? 主従のそれとは異なる契り(関係)は、二人にはありえぬのか、と……。」
さ栄は顔を伏せた。契り、の言葉が、そのつもりはなかったのに「愛情関係」という意味を越えて生々しく感じられて、羞恥に打たれていた。この時代、「契りを籠むる」とまで言えば、肉体的な結合の意味になる。新三郎は黙り込んでいる。
(新三郎、たったいま、お前はわたくしを抱き寄せてくれた! あれは夢か何かだったか?)
「姫さま……。」
新三郎は、躰を起こそうとする。痛みに顔を歪めた。
「無理はならぬ! 傷口が開く!……ああ、すまぬ、すまぬ、新三郎?」
痛みを必死の思いで我慢して、新三郎は半身を起こし、さ栄の肩をまた片手で抱いた。さ栄は驚きと喜悦に一瞬で包まれた。新三郎は、すぐに力尽きたように、そのまま、また小さな悲鳴のような息を吐きながら崩れ、仰向けになった。さ栄が寄り添って倒れる形になる。
「姫さま……お許しください。また!」
「なにを気に病む? さ栄が、かようにしてほしくて、させた。」
新三郎は、さ栄の髪の匂いを嗅いだ。泣くような声が出る。
「ああ、……姫さま、あなたさまを、お慕いいたしておりまする。前からつっと、心の底で願うておりました。あなたさまと、かように、と!……言うてしもうた。ご無礼を、お許しください……。」
さ栄の胸のなかで、新三郎の言葉が反響している。喜びに、気が遠くなりそうだった。
「……うれしい、新三郎。これほどうれしいことが、おそろしいことの後にあってよいのか? うれしい! 新三郎、さ栄も前から、望んでおった!」
新三郎は、生まれてはじめて味わう感動に震えた。さらに強く、さ栄の柔らかい躰を抱き寄せようとしたが、左腕を上げた途端に、痛みに呻く。
「……あ、あ? 無理はいかぬ。」
「無理がしておきたい。姫さまと、……。夢のようで……。夢が醒めてしまえばもう、愛おしい姫さまには触れられぬ、と思うと……。」
「これ!」
さ栄は笑み崩れた。半身を起こして、二晩で深く落ちてしまった新三郎の頬を両手で挟んだ。この世で一番好きな顔を眺めて、笑顔を見せた。泣いている。抱き寄せられている悦びのなか、新三郎の口から出た言葉に、うれし涙が止まらない。
(やっと、言うてくれた……。わたくしの、愛おしい新三郎。)
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