ルーヴェンディウス様はそのような価値観の方ではありません

「この蔦はそう簡単に切れません」「勝負ありです。降参を」


 蔦の魔法によって全身を縛られたセーレに対して降伏を呼びかけるエルフの姉妹。

 セーレの正面に並び立ち、正面から月明かりを浴びるその姿は美しい。


 それに対してセーレはあくまでも冷静に周囲の状況を確かめる。

 そうなるように誘導したつもりであったが、改めて確認する。


 ……大丈夫だ。問題ない


 そしてセーレはまるで夜の挨拶をするかのようになんと言うことなくその言葉を呟いた。


「目覚めよ、影の眷属」

 その瞬間、月明かりによってエルフ達の後ろまで伸びていたセーレの影がおもむろに起き上がった。


「…………! カマンダ……!」

 それにいち早く気がついたのはセーレから向かって左に立っていたアマンダであったが、彼女にできたのは双子の妹の名を呼ぶことだけだった。


 完全に不意を突かれたアマンダはセーレの形をした影から一撃を食らい、あっさりと意識を刈り取られて昏倒する。


「なっ……!」

 それを見たカマンダは慌てて剣を振りかぶって影に攻撃を仕掛ける。


 しかし、カマンダとセーレでは戦闘能力に差がありすぎた。そもそも、一対一で適うはずのないほど二人には能力差があるのだ。


 セーレと全く同じ能力を持つ影はカマンダの剣をあっさりと弾き飛ばすと、手に持った影の剣をカマンダの首筋に当てた。


「……………………まいりました」

 なすすべのないカマンダは両手を挙げて降参した。




「フェン、アマンダさん、カマンダさん。よくやってくれました」

 気付けの魔法によって意識を取り戻したアマンダを含めてリリムの元へと戻ってきた従者達に、リリムはねぎらいの言葉を掛けた。


「しかし、一勝一敗ですか。これはどう見れば良いのでしょうか?」

 この庭に立ち入ったとき、ルーヴェンディウスの従者たるサキュバス達は「自分の手で価値を証明せよ」と言った。これは証明したことになるのだろうか?


「帝国の価値観では、強い者が尊ばれるのですが――」


 そこに先ほどまでの対戦相手であり、課題を出した相手でもあるフォルネウスとセーレ、二人のサキュバスがやってきた。

 メリハリのある肉体に露出が多い服装であったが、戦いでさらに彼女たちの服は裂け、その服はほとんど機能を果たすかどうかギリギリといった所にまでなっていた。


「ルーヴェンディウス様はそのような価値観の方ではありません」

「というと?」

 リリムがフォルネウスに聞くと、フォルネウスは軽く頷いた。


「弱くとも強くなろうとする者、賢い者、忠義を発揮しようとする者、真面目な者、努力する者、何かを守ろうとする者。それらすべてを我が主は愛されます」


「…………なるほど。その結果がこの街の多様性ということですか」

 ルーヴェンディウスが治めるこのフラッドフォードの街は――いや、ルーヴェンディウス領すべてが他領では弱く迫害される種族も安心して暮らしているのを見た。


 それはアガリアレプトが――そしてリリムが目指す帝国のあるべき姿とも繋がっているように思えた。


「こちらへどうぞ。ルーヴェンディウス様はお会いになります」

 フォルネウスとセーレが先導する中、一行は領主の屋敷へと足を進めていった。


「いよいよご対面でござるな」

「あなた、すっかりわたし達に馴染んでますね」

 屋敷にまでくっついてきたエルにリリムはため息をついた。


「何を言ってるでござるか。それがしとリリムどのの仲でござろう」

 そう言うエルにリリムはやはりため息をつくことしかできなかった。どうこうするフェンやエルフのメイド達も苦笑いするばかりであった。


 そしてルーヴェンディウスの館に足を踏み入れる。

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