殺したりはしません
フェンが空に浮かぶ月を憎々しく見上げた。
――あの月さえなければ……!
しかし、それはいくらフェンといえどできない相談であった。普段であれば狼の自分に力を与えてくれる存在である月がこんなに憎いとは。
――あれ? でも……。
月はただそこにあるだけだ。問題なのは影に突き刺さっているナイフの方なのだ。
――あのナイフさえ……。
自由に動けるなら後れを取ることはない。しかし、身体を動かせない身ではそれは到底不可能なことであることはフェンにも十分理解できていた。
――ナイフはうごかせない。ならどうすれば……? そうか……!
「殺したりはしません。最初チクッと痛いですが、すぐに麻痺が効いて痛みは感じなくなります」
フェンの足元まで来たフォルネウスが折れた剣を突き刺そうと振りかぶった。
その瞬間。フォルネウスにとって理解しがたいことが起こった。
巨大な狼の身体が一瞬で消えたのだ。
「なっ……!」
驚き、一瞬怯んだフォルネウス。
しかし、その一瞬があれば十分だった。
少女の姿に戻り、影が小さくなったことで戒めが解かれたフェンはフォルネウスの所まで素早く駆け寄ると、再び狼の姿に戻った。
「しまっ……!」
気がつくと、サキュバスの扇情的な肢体は爆発的に巨大化した白い狼によって組み伏せられていた。
――ぼくの、勝ちだね?
その大きな前足で両手を押さえられ、巨大な狼の瞳に見つめられたフォルネウスは、自らの敗北を認めるしかなかった。
「…………降参です」
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