この蔦はそう簡単に切れません
エルフ達の速度がさらに上昇した。よく見ると、彼女たちの身体を薄く残像のようなオーラがまとっていることがわかる。魔法の力で身体ブーストをかけたらしい。
エルフは肉体的には他種族よりも劣るが、それを補って余りある魔法の能力に恵まれた種族であった。ゆえに帝国でも大きな役割を担うことも多い。
今エルフの姉妹はその恵まれた魔法の力を遺憾なく発揮してセーレに襲いかかる。
その動きはさらに鋭さと巧みさを増し、もはやセーレには目で追うのがやっとというレベルに達していた。
さらに――
「炎の矢!」「氷の刃!」
剣での攻撃にくわえて魔法も織り交ぜた攻撃により、敵が間合いを離しても気を抜かせない。
「くっ……!」
サキュバスの顔に焦りの色が浮かぶ。
間断なく剣と魔法の攻撃を緩急を付けて続けることで相手の体力を奪う戦い方は、アマンダとカマンダの得意とする戦法であった。
メイドとして卓越した能力を持つ二人だが、それに加えて双子であるというメリットを十分に生かした以心伝心は、まるで一人の人物が二人に別れたかのようであった。
メイドである二人は主が命じるよりも早くその意志をくみ取り、先回りして動くことが求められる。
それは敵に対しても同様である。敵が最も嫌がるタイミングで嫌がる攻撃をしてこそ一流の戦闘メイドといえる。二人はその本領を発揮していた。
今この時もお互いは全く打ち合わせなどしないで先のサキュバスが最も嫌がるタイミングと方向から常に攻撃を繰り出す。
敵はこちらよりも上手だが、彼女たちの連係攻撃を打ち破れるほどの実力はない。それが彼女たちの見立てだった。
「てやぁぁぁぁぁっ!」
カマンダが単独でセーレに斬りかかった。それとタイミングを合わせるように背後からアマンダが火の玉を投げつけた。セーレの視界にギリギリ入る位置で、セーレの意識が一瞬そちらに取られる。
これが一対一の戦いであればカマンダの攻撃を受けることなく回避し、カウンターで決着がつくであろう場面であったが、アマンダとカマンダの以心伝心の動きによってセーレは火の玉を回避し、カマンダの剣を受けざるを得なかった。
甲高い音がバトルフィールドに響き、つばぜり合いになる。
渾身の力を込めてセーレを押さえにかかるカマンダ。パワーで劣っているとはいえ、セーレも侮っていられる状況ではなかった。
一瞬、アマンダの存在がセーレの頭から消えた。
その隙を見逃すアマンダではない。
「
植物を使った魔法はエルフの得意とする所である。瞬時に魔法を組み立てて魔法を発動させた。
セーレの足元から頭を出した数本の蔓が一瞬で生長し、セーレの身体を縛る。
「……………………なに!?」
縛られたことによって剣を取り落としたセーレに対し、寸前までつばぜり合いをしていたカマンダも一歩下がり、同様に蔦の魔法を唱えた。
セーレの足元からさらに数本の蔦が伸びてセーレを更に強固に縛る。
大地から伸びる十数本の蔦がセーレを立ったままがっちりと縛り付けている。それはまるで大地にどっかりと根を下ろす大木のようであった。
「くっ……」
セーレはもがくが魔法の蔦は強固で、もがけばもがくほど蔦は強くセーレの身体を縛り付ける。まさに手も足も動かせない状況であった。
「この蔦はそう簡単に切れません」「勝負ありです。降参を」
縛られ動けないセーレの前に姉妹が並んで立った。
それに対してセーレは無表情でただ彼女たちを見るだけだった。
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