どうして誰も彼もこう血の気が多いのでしょう
「それであなた、何者なんですか?」
「何をおっしゃいますか、リリムどの。それがしはずっと旅のものだと申しているでござらぬか」
領主の館の門をくぐり、大きな屋敷までの間に広がる庭の中を歩きながら、リリムは怪しげな剣士に尋ねた。
「…………まあ、そういうことにしておきましょう」
いくら聞いてもリリムの望む答えにはたどり着きそうになかったので、その話はそこまでにした。
さすが“商都”と呼ばれるだけのことはあるだろうか。この館は帝都にある魔王城には及ばぬものの、他の領地と比べて際立って大きかった。特に今リリム達が歩いている庭は見渡す限りの芝で敷き詰められており、ちょっとした街ならこの庭にすっぽりと入ってしまうほどである。
日はすでに暮れつつあり、庭を取り囲むように備え付けられている松明が広大な庭を煌々と照らしている。松明だけではここまで明るくすることはできないので、魔法の力も借りているのかもしれない。
そんな散策には最適な領主の館の庭であったが、どうやら館の主は暢気に散策をしてくれるつもりはなさそうだった。
「お出迎えのようですね」
リリムの視線の先には二人の女が立っていた。
すらっとした長身の女たちである。その美しい顔はもとより、出るべき所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる蠱惑的な身体をしている。この場には女性しかいないが、男性が見たらひと目で魅入られてしまうのかもしれない。
「サキュバス……ですか」
サキュバス。淫魔とも呼ばれ、異性の性を吸って生きる種族と言われているが、それは言われもない偏見である。
そのような偏見がまかり通っているために差別にあい、数を減らしていたが、この自由な街では生き残りがいるようだった。
しかしその二人のサキュバスたちは自分たちに向けられている偏見を肯定するように、至る所で白い肌が露出する身体の線がくっきりと出る服を着ている。
そんなサキュバス達のうち、左側の一人が一歩前に出て礼をした。儀礼に則った動きであり、高度な教育を受けていることが伺える。
「ようこそ、我が主の館へ。私はフォルネウス。そしてこちらは妹のセーレ」
セーレと紹介されたもう一人のサキュバスは無言で一礼した。
「我が主は価値のないお方には会われません。どうか、ご自分の手でその価値を証明し、主への道をお開きください」
そうして、二人はどこからともなく剣を取りだした。金色の装飾が施されている豪華な剣だ。高名な鍛冶師が鍛えたのだろう。
どうやら、ここは散策の場ではなく戦場だったらしい。
「やれやれ……。どうして誰も彼もこう血の気が多いのでしょう」
リリムは自分の後ろでニコニコ笑っているエルを見ながら虚空からソウルファイアを取りだした。
しかし、その行動にフォルネウスは首を振る。
「いえ、我々の相手をしていただくのは――」
そして、リリムの後ろを指さした。
「あなた方です」
その先にいたのはフェンとアマンダ、カマンダのメイド姉妹だった。
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