お嬢さん、何かご用かな?
「さあさあ、領主の館はこちらでござるよ。といってもこの大通りをまっすぐ進むだけなんでござるがね」
すっかり道案内役になったエルに誘われるまま一行は人波をかき分けながら進んでいく。
道中、珍しいモンスターの出し物やおいしそうな屋台の香り、きらびやかな衣装を身にまとった女の人などに釣られそうになるフェンを引きずりながら大通りを進み、やがて町の一番奥にある大きな館の前までやってきた。領主たるルーヴェンディウスが住まう館である。
ブラッドフォードは来る者拒まずの精神を体現している街であったが、さすがの領主の館ともなるとフリーパスというわけにも行かず、大きな門は固く閉ざされており、その前には肉体を誇るオークの門番が立っていた。
「ここは領主の館だ。お嬢さん、何かご用かな?」
オークといえば粗暴なイメージがつきまとうが、どうやらこの門番はきちんとした教育を受けているらしく、突然の来訪者に対しても礼儀正しく接してきていた。
オークの目の前に立ったリリムはいつも以上ににっこりとした笑顔になって、
「こんにちは、門番さん。わたしはリリム。ルーヴェンディウス様にお目通りいただきたく参りました」
門番から見れば見知らぬ少女からの突然の来訪だったに違いないが、それでも彼は穏やかな雰囲気を崩すことなく応対した。
「ごめんね、お嬢ちゃん。領主様は事前のアポイントがないとお会いになれないんだよ。あっちの事務所で手続きをして、また今度来てね」
それは事前にアポイントを取れば会えるということなのだが、それが気に入らない者もいた。
「おいおまえ、リリムさまにぶれいな――むぎゅううう」
門番の態度に腹を立てたフェンが彼に詰め寄ろうとしたが、後ろに立っていたエルフ姉妹に身体を押さえられ、口を塞がれた。ここで暴れられてはリリムの顔が立たないとメイドたちは理解しているのだ。
「とにかく、今日の所は引き返しな。また今度――」
と言いかけた所でオークは一行の中にいる一人に気がついた。向こうもオーク氏がこちらを見たことに気づいたらしく、「ども」とばかりに手を挙げた。
「あ、あなたは……!」
「この方々をここまで案内してきたでござる。中に入ってもいいでござるか?」
「も、もちろんです! どうぞお入りください!」
先ほどまでの態度はどこへやら、オークの門番は門の脇に移動し、最敬礼をして館への道を空けた。
その脇を通って一行は中へ入っていく。途中、フェンがすれ違いざまに門番に向けて舌を出したのをリリムは見ないふりをした。
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