ぼく、なんだかワクワクする!

 ブラッドフォードの街は、ルーヴェンディウス領の南東、海沿いから突き出た半島にある巨大な街だ。

 三方を海に囲まれており、敵からの襲撃に備えるためにここに街を構えた――わけではない。


 その証拠に、街は広く開かれており、誰でも出入りすることはもちろん、交易を行うことも、移住することも自由なのだ。

 そのためにこの街ではさまざまな種族――特に帝国では虐げられている人間や交雑種が多く暮らしている。


 そのため人口も多く、商売も盛んで、“商都”とも呼ばれている。


 開かれたままの城門をくぐった先で一行を待ち受けていたのはまっすぐ奥まで伸びる大通りと、その左右に文字通りひしめく店、また店。そして身動きが取れないほどの数多くの人々。


「こちらとこちらと、あとこれもいただこうかしら」

「どいたどいたー! 荷運びは急には止まれないよー!」

「いらっしゃい、いらっしゃい! 今だけの大特価!」

「ええいチクショウ! 持ってけドロボー!」

「ねえママー! あれ欲しい!」

「へいおまち!」


 さまざまな声が重なり合って、耳がつんざくほどの大きさだった。今日が特別賑やかだと言うわけではなく、エルによると毎日こんな感じだということだ。


「おぉぉぉぉ……!」

 目を輝かせたのは少女の姿に戻ったフェンだ。物心ついたときからバットリーで奴隷戦士として育てられていた彼女は活気のある町並みというものを見るのが初めてだった。みるものみるもの何もかもが目新しく、首がちぎれそうな勢いで右を見ては左を見て、「あれはなに、あれはなに」とリリムに聞いてまわっている。


「ふふふ、楽しそうですね、フェン」

 そう言うリリムにフェンは上目遣いでキラキラな目を向け、こくこく頷いた。


「はい! ぼく、なんだかワクワクする!」

 そうしてはしゃいでいる姿を見ていると、普通の年相応の女の子のようだった。


「皇子達を倒して世界を我が手中に収めた暁には、リヴィングストンもこのようにしたいですね」

「本当、リリムさま? リヴィングストンもこんなになるの?」


「はい。皆が安心して暮らせる世になれば、必ず」

「リリムさま、たのしみ! ぼく、がんばる!」

 フェンは歌いながらくるくると回っている。そのままどこかへ歩いて行きそうな勢いだったので、リリムが手を繋ぐことにした。

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