あなたは本当に世界一強いのですか?

「なるほどそうですね。確かに、あなたが魔王です」


「リリム様……?」

 リリムが話しているときに口を挟むことは控えていたアドラメレクが、さすがに口を挟んだ。が、リリムはそれも制した。


「あなたが本当に世界一強いのであれば、あなたこそ魔王にふさわしい」

「ゲーフゲフゲフゲフ……!」

 グブロックは下品な笑い声を上げて喜んでいる。


 そこにリリムが「で?」と続けた。


 リリムは穏やかにトロルを見つめたが、見る者が見れば恐怖に震え上がっただろう。もちろん、この愚鈍なる大男はそんなことに気づきもしなかったが。


「……なるほど」

 リリムは足を組み替えながら部屋の中を見渡した。部屋の中にはフェン、グロム、ヴェーデル、アドラメレク、ヤックという頼りになる仲間たちが控えている。アマンダとカマンダは先ほど負傷した兵の治療のために下がっている。


「皆に聞きますが、この中で一番強いのは誰でしょう?」

 仲間たちは間髪を容れず、口を揃えて答えた。


「リリムさま」「リリム様ですな」「リリム様ニ違イナイ」「リリム様でございましょうな」「リリム様以外にありません」


「ゲブグブブ……。そうか、お前はそんなに強いか。顔もいいし、胸も大きいし、加えて強いとは、俺様、お前が欲しくなったぞ」

 トロルの顔がさらに醜く歪んだ。それはもしかして笑ったのかもしれないが、余人には理解できなかった。


「では、こうしましょう。ここにいる誰かと戦っていただき、一回でも勝利したらわたしの軍勢一万はグブロックさんの下に入りましょう。いずれも私が信頼を置く一騎当千の者どもです」

 リリムの提案にトロルは上機嫌になった。


「ゲーブゲブゲブゲブ! いいだろう! その暁にはお前を俺様の四番目の妻にしてやろう。せいぜい強い子供を産ませて――」


 その言葉は最後まで放たれることなく、途中で打ち切られた。

 突如現われた巨大な白い狼がトロルの上半身を丸呑みしていたからである。


 ――リリムさまをぶじょくするのは、ゆるせない。


 もちろん、それは甘噛みであったのだが、当のグブロックにとっては死ぬほどの恐怖を味わったのだろう。

 なにせ、巨大なトロルである自分よりもはるかに大きな狼にひと噛みされたのだ。フェンの口の中で白目をむいて失神していた。


 結局ただ大きくて醜いだけだったトロルは戻ってきたアマンダとカマンダに軽々担ぎ上げられて退場していった。

 もちろんこのトロルは追放されるだろうが、彼が率いていた二十九人の配下についてはそれぞれが希望すればリリム軍に編入するということでヤックが手続きを進めることになった。


 ちなみにこのあと、ヤックに「私が指名されたらどうするおつもりだったのですか」と問われ「あっ!」とお茶目な面を晒したということに関して歴史書は何も記していない。

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