最も強い者が魔王になる。それがこの国の真理だ
「グウェッヘッヘ。このグブロック様が直々に来てやったぞ」
現われたのは獣の皮をなめしたような腰巻きを身につけた巨大なトロルであった。
グロムやヴェーデルを凌ぐほどの巨体ではあるが、彼らのように引き締まった肉体をしてはおらず、腹や顎の肉はたるみきっていた。
緑色の皮膚に覆われた顔の至る所には醜くイボが浮かび上がっており、口の端からははしたなく白い泡がこぼれ落ちていた。その泡が謁見の間に垂れ落ちて赤い絨毯を汚す。
トロルの発するあまりの悪臭にフェンが顔をしかめるが、当の本人は気づきもしない。
そんなトロルが右手に持つのは大木を切り出しただけのような粗末な棍棒。それをグロムが見咎めた。
「貴様ッ! 謁見の間は武器の持ち込みは禁止であるぞ!」
グロムが部屋に入り込んできたグブロックを名乗るトロルを睨む。ヴェーデルも気を失っている門番の兵士をアマンダとカマンダに預け、リリムとの間に立ち塞がった。
「グブブブブ……。何人たりともこの俺様の歩みを止めることはできぬ。グブブブブ……」
グブロックが下品に笑う。グロムとヴェーデルの間に緊張が走る。
一触即発であった。その時――
「グロムさん、ヴェーデルさん。下がってください」
背後から主の声が聞こえた。リリムの左右を守る屈強な戦士達は異を唱えることなく引き下がった。彼らが本来いるべきリリムの左右に戻る。
「ゲブブブ……。さすがによくわかっているようだな。この俺様に逆らっちゃあ、いかんということを」
グブロックはドスドスと巨体を震わせながら謁見の間を歩き、リリムの前にやってきた。
醜い男から放たれる悪臭にフェンの顔が歪んだが、
「グブロックさんでしたっけ? あなたもわたしの軍に加わるということで、よろしいでしょうか?」
周囲の側近達が顔をしかめる中、リリムは他の者に接するのと全く同じように目の前の醜いトロルに聞いた。
「ゲーブゲブゲブゲブ……!」
それは笑い声だったのだろうか、醜い顔を歪ませてトロルがダミ声を発した。
「違うな。逆だ逆。俺様の率いる軍勢二十九にお前らが加わるのだ。この、魔王グブロック様のな……!」
二十九という数字に周囲からは失笑が漏れる。
しかし周囲のそんな様子には一切気づくことなくグブロックは続けた。
「最も強い者が魔王になる。それがこの国の真理だ」
「ふむ、そうですね」
リリムが頷くと、グブロックはさらに調子に乗った。
「ならば俺様が魔王だ。違うか? ゲブゲブ」
「なるほどそうですね。確かに、あなたが魔王です」
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