わたしは有能であるならば出自も過去も問いません

「わたしの記憶が正しければ、グロムさん、あなたも最初はわたしの敵だったと思いますが」


「うっ……」

 主の正論にグロムは言い返すことができなかった。


「わたしは有能であるならば出自も過去も問いません。グロムさん、あなたのようにね」

「……………………」


「オ前ノ負ケダ、グロム。リリム様ハ我ラの言葉ニ耳ヲ傾ケテクダサルガ、ソノ信念ヲ揺ルガスコトハデキヌ。シテハナラヌ」

 ヴェーテルがグロムの肩を叩いて諭した。かつては敵同士として戦った二人は、今では互いを認め合う同僚ライバルだった。


「そうだな」

 そして、グロムは主に深々と頭を下げた。


「申し訳ありません、リリム様。出過ぎたことをいたしました」

 しかし、リリムはそれに笑顔で応える。


「いいえ。わたしと、皆のことを思っての進言だったと理解しております。その気持ち、ありがたく思っています。わたしは、イエスマンは好きではありません」

 その言葉にワータイガーの忠臣は改めて忠誠を誓うのであった。


「さて、少し横道にそれてしまいましたが」

 リリムはそのやりとりを唖然としながら見ていたハーフエルフの青年の方に向き直った。


「ヤックさん」

「は、はいっ……!」

 魔王を自称する十も年下の少女に名を呼ばれ、ヤックは直立不動となる。


「あなたにはこれからもこのウェリングバラの街で人々のために働いてもらいます。よろしいですか?」

 リリムの申し出に対し、ヤックは深々と頭を下げ、こう言った。


「謹んで、お断り申し上げます」


「!?」「なっ……!」「キサマ……!」

 驚く一同。しかし、当のリリムだけは冷静だった。


「なるほど。詳しく聞かせてもらえますか?」

 ヤックはリリムだけをまっすぐ見た。


「私は先ほど、すべての人々のために働くと申しました。その目標を現実のものとするためにはリリム様、貴女様のお側でお仕えするのが最も力を発揮できると考えます。どうか私をリリム様の分析官としてお使いください」


 ヤックの顔には自信と信念が見て取れる。リリムはその顔を見て大きく頷いた。

「……いいでしょう。ヤックさん、あなたの同行を許可します」

 その言葉にヤックは再び深々頭を下げるのであった。


「ヤックさん、あなたには冷静な視点からの意見を期待します。わたしの周りには血の気の多い者が少々多いようですからね」


「確カニソウデスナ。俺以外ニモモウ少シ、冷静ナ者ガリリム様ノ周囲ニイテモヨイ」

「お前が言うか!」

「『もうしん』ヴェーテル……」


 グロムのツッコミにフェンがぼそりと続けたことによって場に笑いが巻き起こった。

 カマンダが持ってきた帝国軍の軍服に袖を通しながらそれを見ていたヤックは、よい職場に巡り会ったと笑みを浮かべるのであった。

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