帝国に住むすべての人々のために働いています

「コノ男、危険デス」

「ヴェーテルに賛成です。このような者を捨て置くとのちの脅威になります。処刑しましょう」


「ひぃっ……!」

 ヴェーテルとグロムの進言にヤックは怯え、手に持っていたスープカップを取り落とした。


 リリムはその進言を聞き、何事か考えると、ヤックに訊ねた。

「ヤックさん、あなたは貴族ではありませんね?」


 敵将の質問の意図を図りかねたのか、ハーフエルブの分析官は少し首を傾げ考えを巡らせた後、正直に答えた。


「はい。おっしゃるとおり、私は人間とエルフの混血ですので貴族ではありません。もとはここから西に四日ほど歩いた所にある小さな村の出身なのですが、村の皆のおかげで帝都の大学に通うことができ、そこでも優秀な成績を収めることができたので領主の館ここで働かせてもらえることになりました」


「なるほど。では、あなたは誰のために働いているのですか?」

「誰のため……? 帝国のため? ウェリングバラのため? いや、違うな……」


 そしてヤックは少し考え、やがて納得いく答えが見つかったかのように自信満々に言った。


「人々のため。この街――いえ、帝国に住むすべての人々のために働いています。公僕とはそういうものです」


 リリムはヤックの話を聞いてよく頷いた。

「わかりました」


 そして、リリムは背後に控えるアマンダとカマンダ、双子のエルフメイドたちに指示を出した。

「この方に帝国軍の制服と食事の用意を」

 命に従い、メイドたちは一礼すると謁見の間を後にした。


「てぇことは、姐さんはこいつを“使う”ってことですかい?」

 ムームーの指摘にリリムは頷いた。


 それにヴェーテルとグロムは驚いた。

「リ、リリム様!?」

「もしや、この者を配下にすると? 危険です。どうかお考え直しを!」


 しかしリリムはいつもの笑顔を浮かべたまま、少しも表情を変えはしない。

「なぜですか?」


「何故、ですと? そいつはフラウロスの側近だからです。敵です!」

 グロムの指摘にリリムは首を傾げる。


「はて、おかしいですね」

 そしてそのままグロムをじっと見つめた。巨体を誇るワータイガーが小柄な少女に視線を向けられてたじろいだ。

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