わたしが正統なる魔王です

「な、内戦を首謀した者は死刑だと? だったら貴様が死刑ではないか! 語るに落ちたな、人間よ! 法を守るというのならば、まず自分で自分の首を絞めよ!」


 自分の立場も忘れていきり立つフラウロスであったが、それに対する周囲の視線は冷ややかであった。さきほどあれほど怒りを露わにした三人すらも同様だ。その視線には哀れみすら含まれていた。


「内戦とは――」

 そんな中でリリムだけは何の表情も浮かべることなく、淡々とフラウロスに聞いた。


「正統なる国の統治者に対して武力をもってその正当性に対抗すること。そう理解していますが、よろしいですか?」


「そ、そうだ。だから正統な魔王であるダンタリオン兄上に反乱を起こした貴様こそが内戦の首謀者だ! さあ、自分の首を落とせ!」

 我が意を得たりとフラウロスはリリムの論理の破綻を、二重性を追求する。正義は自分にあることを主張してこの場を乗り切ろうという方針に切り替えていた。


 しかし、周囲の反応はフラウロスの期待したものとは異なっていた。クスクスと笑い声すら聞こえてくるではないか。


「な、何だ? 何を笑っている!」

 フラウロスは周囲を見ながら怒鳴るが、周囲の笑い声は広がることすらあれど、納まる気配はない。


「ふふ、ふふふ……。皆、やめてあげてください。仮にも……ふふ……皇子なのですから……ふふふ……」

「あははは……そういうリリムさまだって……はははっ」


 赤髪の少女と白髪の幼女が笑っている姿は微笑ましい姿であった。戦争の事後処理をしている場所であるというシチュエーションさえ除けば。


「フラウロス」

「…………!」


 リリムの目つきが変わったことをフラウロスは鋭く察した。同時に笑い声も謁見の間から一斉に消えた。


「前魔王サタナキア六世はアガリアレプトさまを後継者に指名しました。そのアガリアレプトさまは死の間際、わたしに後を託しました。その場にいたあなたが知らぬとは言わせません」


「だからなんだというのだ!」

 フラウロスはリリムに噛みつかんばかりの勢いでまくし立てた。しかし手足を縛られている身ではそれ以上何もできない。


「わたしが正統なる魔王です」


「ふ……ざけるな! たかが人間が魔王だと? 最弱で無能の種族ではないか!」

 その指摘にリリムは首を傾げた。


「確かに私は人間です。でも、すでに数千の軍を率い、ウェリングバラの軍隊を一人で壊滅させたわたしは最弱なのでしょうか?」


「強いものこそ尊ばれるという帝国の国是に照らしてみれば――」

「リリム様コソ、魔王ノ器ニ相応シイ」

 グロムの言葉をヴェーテルが引き継いだ。


 リリムは彼らの言葉に満足そうに頷くと、

「ゆえに、内戦の定義に従えば、アガリアレプトさまを殺害したあなた達兄弟こそ内乱の首謀者なのです」

「そ、そんな無茶苦茶な……!」


 リリムは木の玉座からすっと立ち上がった。

「判決を言い渡します」


「ま、待ってくれ! 反省してる! この通りだ! どうか余にやり直す機会を与えてくれ! 頼む!」

 フラウロスは明らかに狼狽している。この後に申しつけられる判決に対してある種の確信があった。


 すなわち――


「元皇子フラウロスに死刑を宣告します」

 その瞬間、フラウロスの顔はこれまで以上に青白くなった。絶望が彼を覆い尽くす。


「頼む! 死刑だけは勘弁してくれ! 何でもするから、命だけは……!」

 リリムは何もない空間から燃えさかる剣を取り出すと、数歩前に歩き出してフラウロスの目の前までやってきた。


「お願いだ。助けてくれ! お願いします……」

 ガタガタ震えて必死に頭を下げて懇願するフラウロスに、リリムはもはや何の感情も抱かなかった。そのまま無言で剣を掲げる。


「い、いやだ! 死にたくない! どうして余が死ななければならないんだ! これもすべてアガリアレプトが――」

 しかし、その言葉の続きは永遠に断たれた。


「アガリアレプトさまを侮辱することは許しません」

 リリムはその燃えさかるような赤い瞳から冷ややかな視線を物言わぬ物体となったフラウロスの首に向けた。

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