正真正銘、真正なる魔王です

「俺は……フラウロス様は何と戦っているんだ? 誰を敵に回してしまったんだ?」

 呆然と呟くノーリに対し、リリムは律儀に答えてやる。


「〈魔王〉ですよ。帝都で必死にその椅子を守っているだけの偽りの魔王ではなく、正真正銘、真正なる魔王です」


 気がつけば、“魔王”を自称する赤い女が数十メートルの間合いを詰めてノーリの目の前にやってきて、耳元でそう囁いていた。


「ふ、ふざけるな! たかが人間ごときが魔王などと……!」

 その言葉に既存の帝国の価値観に染まりきっていたドワーフの頭は瞬時に沸騰した。人間ごときが魔王を名乗れるはずがない。名乗っていいはずがない。


 ノーリは両手で硬く握っていた斧を大きく振り上げて、そのまま目の前にいるリリムに向けて振り抜いた。三万の軍勢を無傷で倒した理解の埒外にある存在であろうと、首をはねてしまえばそれで終わりだ。そして自分にはそれを実現させるための力、二十年にわたって追い求めてきた戦闘技能がある。


 敵が目の前にやってきてくれたのはむしろ僥倖なのではないか。

 しかし、その攻撃がリリムの身体を傷つけることはなかった。


 リリムに弾かれたのではない。斧はノーリの思った方向とは全く違う方向に飛んでいったのだ。

 斧を握る彼の両手とともに。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 両手を切断された彼の苦痛は長くは続かなかった。


 何故なら、その直後に腰から上下に彼の身体は燃えさかる剣によって左右に切断され、痛みを感じることもなくなったのだから。


「これで、全員ですかね?」

 リリムが辺りを見渡す。他に立っているものは誰もいなかった。いつの間にか炎の壁も消えていた。


「リリムさま!」

 いや、森の中から駆け寄ってくるフェンとメイドの二人、アマンダとカマンダだけがその場に立っていることを許されていた。


「リリムさま、さすが」

 そう言ってにこにこと駆け寄ってきたフェンの頭を撫で、アマンダとカマンダには「ドレスは汚しませんでしたよ」とドヤ顔で報告する頃、街の方から赤い狼煙が上がっているのが見えた。


 領主の館を制圧した合図だ。

 リリム達の完全勝利である。

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