リヴィングストンは敵軍の包囲下にあり

姐さん! いや……リリム様!

 皇女ヴェパルを倒し、闘技場都市バットリーを解放したリリムは、途中幾つかの町や村を開放しながら北上していった。目指すはアガリアレプトが治めていたアガリアレプト領の中心都市、リヴィングストンだ。


 おそらくヴェパルが倒れたことも、バットリーが解放されたことも、アガリアレプトの意志を継ぐリリムが挙兵したこともおそらくまだ外には漏れていない。

 ゆえに、解放された町々の防衛は残してきた戦力でまかなえると判断した。


 しかし、リヴィングストン――アガリアレプト領は別である。

 帝国の皇子達はこの土地の主――アガリアレプトが死んでいることをすでに知っている。この土地を狙うものからすれば絶好の機会であった。


 前魔王の第四皇子・フラウロス。


 欲深い男として知られており、自らの贅沢のために民を搾取しているとの噂が絶えない悪徳領主である。


 常々自領の拡大をもくろんでいるフラウロス。間の悪いことにアガリアレプト領はフラウロス領と領土を接していた。このフラウロスが統治者のいないアガリアレプト領を狙わないはずがないのだ。




「姐さん! いや……リリム様! 大変でさあ! げほげほっ……!」


 その日開放した街で、捕えられた代官が使っていた屋敷を接収して進軍ルートを主だった面々と検討していたリリムの元に、リヴィングストンに偵察に出していた斥候が戻ってきた。


 リリムを『姐さん』と呼ぶ、リリムと同じ待機部屋だったノームの奴隷戦士・ルールーである。


 この男、もとは泥棒シーフで、よりにもよってヴェパルの屋敷に盗みに入ったが捕まってしまい、奴隷にされたのだという。その素早さと目の良さから斥候向けだと判断して本隊に先行して偵察に出していた。


「大丈夫ですか? フェン、水を」

 白髪の少女フェンはリリムの護衛剣側仕えとして常に行動を共にしていた。そのフェンが持ってきた水をひと息に飲み干した斥候はようやく一息ついたようで、「ほう」と息を吐いた。よほど急いで戻ってきたのだろう。


「ありがとよ、狼の嬢ちゃん」

 お調子者のルールーがフェンに親指を立ててウィンクする。しかし、当のフェンは無表情のまま軽く頷いただけで素っ気ない。その程度のことを気にするようなルールーではなかったが。

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