戦闘ジャンキー。なるほど言い得て妙だな
「戦闘ジャンキー。なるほど言い得て妙だな」
獣人たちがそんな話をしている間もグロムとヴェーテルの打ち合いは続いている。
もう何度そんな攻防を続けただろう。目の離せない戦いが延々と続いている。
グロムの剣をヴェーテルの斧が防ぎ、ヴェーテルの斧をグロムの剣が防ぐ。攻防一体の舞のような二人の男の動きにいつしか屋敷前に集まっていた暴徒達も見入っていた。
しかし、終わりのない戦いなど存在しない。その攻防も唐突に終わりを遂げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ドリャァァァァァァァァァァァァァァァ!」
手加減のない全力の攻撃がお互いの武器を打ち据える。
その瞬間、それまでの鉄塊どうしが打ち鳴らされた時に生じる重い音とは明らかに異なる甲高い音が屋敷のエントランスを支配した。
グロムの大剣とヴェーテルの大斧。それぞれの限界が同時に訪れたのだ。それぞれの武器は粉々に粉砕され、ワータイガーとオーガはバランスを崩す。
しかし、それで戦いは終わりではなかった。二人はすかさず体勢を整え、岩のような拳で相手を殴りつける。
「ウガァァァ!」
「まだまだぁ!」
ヴェーテルのパンチがグロムの頬にヒットした。この戦いで初めての有効打だ。
しかしそれはグロムの誘いだった。ヴェーテルの動きが止まった隙にすかさずグロムの膝がヴェーテルの腹に食い込んだ。
「ガウッ!」
お返しとばかりにヴェーテルはグロムの頭頂に両手を組んだ拳を力任せに振り下ろした。
「どりゃあ!」
グロムもただでは済まない。攻撃を食らいながらもヴェーテルの顎目がけてアッパーカットをお見舞いした。
「デヤァァ!」
「はぁっ!」
「セヤァァ!」
「ふんっ!」
「ガァァッ!」
「でりゃぁぁ!」
武器をなくした男たちの殴り合いが続く。二人とも防御を捨て、どちらが先に倒れるかの戦いになっていた。すでに二人の顔はパンパンに腫れ上がり、口から鼻から出血が止まらない。
「はぁはぁはぁはぁ……」
「ゼェゼェゼェゼェ……」
二人は少し間合いを取って相手の出方をうかがっていた。すでに精も根も尽き果てて、お互い意地だけで立っているようなものであった。
このまま殴り続けていては命に関わる。しかし退くことはできない。その場にいる誰もがこの二人の戦いを止めなければならないと思っていたが、弱っていてもなお、この二人の間に割って入ることのできるものは誰もいなかった。
ただ一人をのぞいて。
「これで、終わりだ――――――――――――!」
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
グロムとヴェーテルは、それぞれの持つ最後の力を振り絞って相手を倒すための最後に一撃を繰り出した。この攻撃の後のことは考えていない、文字通り渾身の一撃だった。
しかし、グロムとヴェーテルは、彼らの拳は彼らが考えているような感触を得ることはなかった。硬い、相手を破壊する感触。あるいは、火のつくような痛みを伴った感触。
どちらでもない、柔らかく、包み込まれるような感触を二人の拳が得た。
「……………………!!」
二人の間には粗末な奴隷服を着た、しかし燃えるような赤い髪の美しい女が立っていた。
女は二人の渾身の拳をいとも簡単にその左右の手のひらで優しく包み込んで止めていたのだ。
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