俺は遊びでここにいるわけじゃない

「オマエ、強ソウダナ。オレト殺リアワナイカ?」

 巨大な斧をかついで屋敷に入ったそのオーガは実に楽しそうに笑った。


「悪いが、俺は遊びでここにいるわけじゃない。そういうのは――」

 グロムが殺気を感じて上半身を反らすと、今まさにグロムの首があった所に斧が振られていた。


「イイジャネーカ。オマエ気ニ入ッタ」

 斧を両手で持ち、殺気を隠そうともしないオーガにワータイガーはやれやれと頭を振った後、目つきが変わった。


「仕方がない。言って聞かないのであれば実力で黙らせるのみ」

 グロムが剣を構えるのを見ると、オーガはさらに楽しそうに笑った。


「ウラァァァァァァァァァ!」

 そのままオーガは巨大斧を力任せに振り抜いた。大理石の柱も粉々になりそうな攻撃力の塊がグロムに迫る。


「ふんっ!」

 しかしそれはグロムが肩に背負った彼の大剣に阻まれた。それでもワータイガーの巨体が数メートル吹き飛ばされたことからその威力がうかがい知れる。


「ヤルナ。今度ハオ前ガコイ」

 楽しそうな表情を崩さないオーガは打ってみろと言わんばかりに自分を指さしている。


 グロムはその言葉に答えることはなく、ただ黙って一歩を踏み込み、その勢いに任せて大剣を振り下ろした。

 しかしその攻撃は先ほどの鏡写しのようにオーガに阻まれた。


「次はオレノ番ダ」

 ワータイガーとオーガ、二人の巨体の打ち合いが始まった。どちらも一撃必殺の一撃を放つが、そのどれもが相手の武器によって阻まれる。戦いは五分のように思われた。


「あ、あいつ……」

「どうした? お前、あのオーガを知ってるのか?」

 帝国軍の軍服を着た狐耳の獣人が奴隷服を身にまとった兎耳の獣人に聞いた。


「ああ。あいつ、『猛進』ヴェーテルだ。コロシアムで二十戦一敗の強者つわものだ。戦闘ジャンキーだってもっぱらの噂のヤバい奴だ」

「戦闘ジャンキー。なるほど言い得て妙だな」

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