血筋の名の下に搾取してきた奴らに捌きの鉄槌を!
わたし達も行きますよ
それからの動きは迅速であった。〈魔王因子〉によるリリム自身のカリスマもあっただろうが、それ以上にヴェパルの圧政に苦しむ人々の不満がリリムの呼びかけによって一気に燃え広がったのであった。
リリムが買収した職員達が速やかに奴隷たちを解放すると、奴隷達はリリム側でない職員達に次々襲いかかり、コロシアムを瞬時に制圧した。
奴隷達はその勢いをかってコロシアムの外、バットリーの町並みに躍り出た。
すでに街には火が放たれており、コロシアムの主な観客層であった貴族街は焼き討ちが広がっていた。夜の闇に貴族街が、そしてその中心にある領主の館が浮かび上がる。
街を守るはずの軍隊や警察は平民層によって構成されていたこともあり、リリムの呼びかけによってすでにほぼ全員がこちらの手になっていた。
貴族達はいずれも戦闘に長けた者たちであったが、一般市民に対して数は圧倒的に少なく、またそこに貴族達以上に戦闘に秀でた奴隷達が加勢したことによって趨勢は決した。
一部の貴族達はヴェパルの屋敷に立てこもり徹底抗戦を叫んだが、多くの生き残った貴族達は降伏して身柄を拘束された。
そして今、ヴェパル領の都であるバットリーはその領主の館を除き、ほぼ全てが民衆の手に落ちていた。リリムの呼びかけからわずか数時間の出来事である。
その様子を半ば崩壊したコロシアムの観客席の上から見ていたリリムは、脇でおとなしく伏せている灰色の狼の首筋を撫でながら彼に話しかけた。
――わたし達も行きますよ。
狼は鼻を鳴らして頭を下げた。リリムはその背に“手荷物”とともにまたがった。
「あぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!」
巨大な狼は夜空に大きく吠えると、彼自身を救ってくれた恩人を背に、領主の館に向けて大きく跳躍した。
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